雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

オススメの謎解き&ボードゲーム&マーダーミステリーを紹介しています

ONLY IN DREAM

 世界は無数の物語で出来ている。それも単純な二次元の座標軸上に存在しているのではなく、有機的に繋がりあう構造物の中に存在している。ボクもキミもお互いに知り合うことができるのは、無数の物語の中のたったひとりだけで、無数の分岐し無数に並行する物語の中には、きっとボクとは似ても似つかないボクがいるはずだし、それがキミだなんて到底、信じられないようなキミだっているはずだ。
 もっともボクは他の物語の中のボクと知り合うことはないし、キミだって他の物語の中にいるキミと出会うことはない。だから本来は、このようなトラブル、起こりようがないんだ。
 そう、不思議なことにボクの物語の中のボクは、他の物語の中に入りこむ能力を持っているんだ。かつて、ただ一度だけ、ボクと同じ力を持った女の人がいた。先生は――ボクは彼女のことを、名前ではなく先生と呼んでいる――ボクに世界が無数の物語で出来ていることを教えてくれた。そして同時に、この世の全ての物語にボクが存在しているわけでもないと啓蒙してくれた。その通り、物語を知っていけば知っていくほど、ボクが如何に存在していないか分かった。そしてそれ以上に、キミが殆どどの物語にもいないことが分かった。
 今、キミはボクの前にいない。かつてキミがいた物語を、ボクは既に通過してしまった。一度、過ぎ去った物語には、もう二度と戻れない。ボクは今日も次の物語に至り、そこにいるかもしれないキミを探している。


『君がいた物語』611文字