雲上四季〜謎ときどきボドゲ〜

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

NOBODY HERE


「それでも、行くと言うのか?」
「ああ」と彼女は迷いもせずに頷いた。「ずっと、無限の地獄だと思っていた。どこまでも続く、果てしなく、永遠に。終わらない責苦から顔を背けることも、自らこの命を絶つこともできず、まるで頭を掴まれて水の中を無造作に出し入れされているような……」彼女は何処か遠く、雲が消えてゆく果てを見るように、うつろな目をした。
 二分ほど、時間が無為に過ぎた。
「ああ、ぼんやりしてしまった。それじゃあ、私はもう行くよ。それじゃあ、運が良ければ、また会おう」彼女は、
 去った。
 去ってしまった。
 彼女が去っていった方向を、私は何時間もの間、何もせずに見つめつづけた。気がついたとき、身体は冷え切っていて、私は鼻水を垂らしていた。
「……ああ」
 事故で両手を失った彼女は、海の向こうにある工房へ義手を求めにいった。どうして私は言えなかったのか。君を抱きしめるのは片腕だけで充分だから、もう片方の手を君にあげると――――。


『堪えがたいほどの空虚感』419文字