雲上四季

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

カオス レギオン03 夢幻彷徨篇

 ジークを討ち、ノヴィアを手に入れるために三人の刺客を放った聖地シャイオンの新領主、レオニス。しかしレオニスの思惑から外れ、刺客のひとり調香師フロレスは、他のふたりの追っ手、吸血医師アキレスと影法師トールの時間感覚を狂わすと、ひとりでジークの元に先行してしまう。フロレスの操る香りの持つ効果のひとつは忘却。時間の流れを忘却させ、敵と味方の存在を忘却させ、やがては自分が大切なものを忘れつつあることを忘却させる力……。互いに見分けのつかなくなった、ジークとノヴィアは、フロレスの策略のままに殺し合ってしまうのか。
 主人公が記憶を喪失するという物語は、ライトノベルに限らず世に多いが、この使い古された手をここまで鮮明に、そして斬新に使いこなせるのは、さすが冲方と言ったところか。他の多くのアクション小説がそうであるように、本書も登場人物のひとりひとりが必殺技を持っており、それをいかに工夫するかが見所になっている。しかし本書の場合、主人公がピンチになったときに新たな力に目覚めるなんて安易な方向には流れず、与えられた能力の方向性を的確に切り替えることによって危機を脱している。また、夜が訪れるたびに強制的に夢を見せられ、その夢の中で過去を回想するという二重構造を取っているのだが、その中にミステリ要素が含まれている。誰が誰を殺したのか、それは本当に正しい記憶なのか。――久々に読みながら手に汗を握ってしまい、最後にこんなに本を読んでいて興奮したのはいつだったろうかと記憶を探ってみれば『マルドゥック・スクランブル』を読んでいたときだと思い出した。恐るべし、冲方丁。(富士見ファンタジア文庫