雲上四季

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

12月のベロニカ

12月のベロニカ (富士見ファンタジア文庫)

12月のベロニカ (富士見ファンタジア文庫)

 第14回ファンタジア大賞受賞作品。
 続編にして最近は珍しい短編集『眠り姫』を上梓した貴子潤一郎のデビュー作。ライトノベル界隈で、個々の作品が完全に独立した短編集と言えば、乙一あたりが代表格ではないだろうか。しかもこれが各所で好評なので、どれとひとつ手にとってみた。――が、読み始めて溜息が出た。やはり富士見ファンタジアだな……と、キャラクタにも世界観にも語り口も今一つ好きになれない典型的なファンタジィ。どうしたものかなと読み続けたのだが、135ページの傍点つきの科白で「ひょっとしたら、ループものか?」と思い、真剣に読み始めた。結果として自分の予想はベクトルが違っていたのだけれど、仕掛けがあることには代わりなく、153ページで本書の持つ構造に気がついた。なるほど、この作品は素晴らしい。仕掛けが魅力的なことは勿論、青くてやってられないほどに甘過ぎるキャラクタと世界観は、想像を絶する時間の重みによって深みを得ている。もし自分が今ほどすれてなく、本の粗を自然と見つけてしまうほど本を読んでいなければ、あるいはこの一途過ぎる愛に当てられていたかもしれない。そういった意味では、本書は本を読みなれていない人には絶好の、そして凄惨な読書体験をもたらすだろう。そういう訳で、読書家にはあまり積極的に勧められない。確かに本書の上手さや下手さや若さならではの無謀さ矛盾さを正確に指摘できるだろうが、ときにそういうことをされない方がいい本もあるのだ。本書はきっと、この世にこういう仕掛けがあることを知らず、ファンタジィが大好きという若者にこそ相応しいのだろう。恐らくは、この作品こそライトノベルだろう。