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セリヌンティウスの舟 (カッパノベルス)

セリヌンティウスの舟 (カッパノベルス)

 これは、どうしたものか。久々に感想に迷う本を読んだ。
 まず、ミステリとしては、いかがなものかと異議がある。自殺と判断された女性がいて、その友人たちが集まって、彼女がどのように死を選んだのか議論するのだが、そこに着目すると、ミステリの中でも実に悪趣味な部分が集まっている。加えて「ひょっとして、彼女は自殺したのではなく、殺されたのではないだろうか」という問いに発展しないのもミステリ的でない。登場人物が全て彼女の親友であるということを考えるとリアリティはあるが、ミステリ的にはどうだろうかと思うのだ。しかし自分で使っておいて何だが、このミステリ的という表現にも問題はある。本書は長編本格推理と銘打たれているが本当にミステリなのだろうか? そもそもミステリとは何だろうか?
 そういった話をここでするつもりはないが、もし、著者が本書をミステリとして書こうとしたならば、もっともっと短く出来たはずである。ネタだけを抽出すれば短編向きのものだからだ。しかし、敢えてここまで長くしたり、太宰治の『走れメロス』と関連付けたのは*1、著者に人の死や人の繋がりを真剣に考えようという意識があったからではないだろうか。
 ミステリとしては不満が残るが、小説としてはそうでもなかった。石持浅海の新しい境地を感じた。

*1:タイトルになっているセリヌンティウスとは、メロスの友人で彼の身代わりになった男の名前