雲上四季

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

885『アイルランドの薔薇』

アイルランドの薔薇 (光文社文庫)

アイルランドの薔薇 (光文社文庫)

 石持浅海という作家について秋山が持っているイメージは、『月の扉』でミステリファンにその名を知られ、『扉は閉ざされたまま』で一躍、有名になったという感じだ。本書は彼の初期の作品で、アイルランドのとあるB&B(いわゆる庶民向けホテル。ベッドと朝食だけを提供する)が舞台で、登場人物は全員カタカナ名で、やや社会派であるという評を聞いて、どうも手が伸びなかった。しかし、ミステリ読みとしてやはり読んでおかなければならないだろうという、謎めいた強迫観念に晒され読んでみたのだが、――面白かった!
 確かに登場人物の名前はカタカナで覚えにくく辛かった。北アイルランドと南アイルランドの政治的要素が絡んできて、理解しにくい部分もある。がしかし! この舞台設定と人間ドラマは秀逸過ぎだろう! 悲しいかな、背景が込み入っていて、それを説明できるほど秋山は理解できなかった。したがってこの場では、とにかく面白いのだと連呼することしかできないのが悔やまれる。面白かった面白かった面白かった、ふう。
 これで石持作品はデビュー作の『暗い箱の中で』を除いて全部読んだことになる。長編だけで順位をつけるならば『水の迷宮』→『アイルランドの薔薇』→『月の扉』→『扉は閉ざされたまま』→『BG、あるいは死せるカイニス』→『セリヌンティウスの舟』かな。