雲上四季

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

963『ファントム』

ファントム

ファントム

ファウスト』対抗誌というような感じの文章をネットでちらりと見て、それっきり忘れていたのだが偶然、書店で見かけて買ってしまった。表紙に号数が記載されていないのは、何故だろうか。

既存のライトノベルにくわえて、より高年齢の読者を対象とした“ライトヘビーノベル”とでも呼ぶべきジャンルが勃興しつつあります。ライトノベルの文法を踏襲しつつ、大人の鑑賞にも耐えうる新しい文学運動としてのライトヘビーのベルを市場に根付かせることが『ファントム』の最大の目標となります。『ファントム』は〈才能あるゲーム作家やライトノベル作家を、文芸作家という旧来のコースに乗せるためのシステム〉に風穴を開け、ライトノベルそのものを新しい文学運動として根付かせ認知させるために刊行します。

 上は本田透による「ファントム刊行のことば」から重要そうであろう場所を引用したものだが、正直なところよく分からない。いや、ここで言っていることは理解できるし、それなりに共感できなくもないのだが、次のページから平然と本田透自身の短編が巻頭を飾り、以降もライトヘビーノベルなるものを感じさせてくれる作品がないのだ。「刊行のことば」と実際に雑誌に収録されている各作品や特集の間に強いギャップを感じる。編集長がやりたいことをやる雑誌としか読めない。
 対談、コラム、マンガは飛ばし、読切小説と思われるものにだけ目を通してみた。
本田透「Innocent World」主人公に、絶対に自分を傷つけるものがいない仮想空間――Innocent Worldを作らせないため、未来から主人公の元に「人間の彼女を作らなければ殺す」と刺客がやってくる。外観だけを見れば、SFの皮をかぶったライトノベルなのだが、その中ではオタクの理論武装が激しく展開されていて参った。目次など目もくれず、前から順番に読んで行ったのだが、巻頭にこれが来ているという事実が、秋山の読書熱を完膚なきまでに奪い取ってくれた。
将吉「きよしメモ」『コスチューム!』の著者だと、少し気合を入れて読んだ。メイド喫茶オタク狩り狩り、そう珍しくもないガジェットだが、それなりに上手く使われていたように思う。モーニングスターは『少女には向かない職業』におけるバトルアックスに対抗しうる素晴らしいアイデアなので、もっと活用すれば良かったのに。
蓮海もぐら「血痕」VIPPERVIPPERであることを隠さずに、ものを書いたならばこういう風になるのかと。なんだかもう異なる次元で衝撃を受けた。これはすごい。なんていうか、もう、すごい。
山本弘「地獄はここに」そろそろ真っ当な小説を読まないと投げるなと思い始めたタイミングで、『神は沈黙せず』の山本弘。一行目から、いかにもライトヘビーノベルみたいな様相で読ませてくれるが、いかんせん短い。折角、魅力的な設定を用意しているのだから、もう少し長く読んでいたかった。
神野オキナ「絶対安全ミカサ荘!」予感はしていたが、ステレオタイプなストーリィにステレオタイプなキャラクタに、ステレオタイプな結末だった。
砂浦俊一「マルチプル・ラブ」元長柾木のような設定の小説。多重人格者たちの生活も面白ければ、「沸騰する電波」などの造語も悪くない。もっともっと書き込んでくれれば、かなりの傑作になりえていたかもしれない。
平坂読白い恋人これは面白い! タイトルと扉絵の淡い感じが、素敵な恋愛小説を読者に予感させつつも、次のページからは平坂読が120%展開されているのだ。実にキッチュで、そして救いのない話。けれど、書きたいから書いた、ではなく、読者を驚かせよう、読者が今までに読んだことのない小説を読ませようという姿勢が感じられるのがとても好印象。と言うか、まあ、本来はそれがふつうであるべきなのだけれどね。
木之本みけネコミミリア」これも面白かった! 一般人とオタクの境界を漂っている主人公を、リアル妹が訪ねてくるのだが、この距離感はとても上手く描けているように思う。ネコミミの描き方も冴えているし、全体的に素晴らしかった。