雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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1113『クイックハルト』

クイックハルト

クイックハルト

 本書は近未来を華麗にスルーし、人類がデータ上の世界「ドライブスペース」に移住した後の世界を舞台にした物語である。その世界には〈平成日本〉や〈昭和日本〉と呼ばれる領域グループが無数に存在し、主人公はそのひとつ〈平成日本〉に暮らす、ふつうの高校生。そんな彼がある日、謎のメール――“ N:'-[”――を受信したとき、物語は始まる。
 ストーリィという点に着目するなら、SF・アクション・青春・巨乳という、どれかひとつだけで長編小説が書けるテーマを平等に追い求めてしまっているために、やや垢抜けない感じになってしまっている。しかし、設定という点においては申し分ない。グレッグ・イーガンを意識させる世界観ではあるが、〈平成日本〉と〈昭和日本〉と〈大正昭和日本〉が同時に存在し、それぞれの世界へ領域移動できるというのは最高に斬新だろう。特にヴァリアブルス条約機構のエージェントである中島近恵という登場人物は、この複数の時代が同時代的に存在する世界観を的確に表している。彼女はいわゆるアンドロイドであるにも関わらず〈大正昭和日本〉の世界においてある男性と結婚し、彼が死ぬまで結婚休暇として主婦業に専念したのだ。彼女のの言葉の端々から、世界観の深みが感じられた。
 巨乳萌えよりドジっ娘アンドロイド萌えにこそ勧めたい。
(追記)著者が中島近恵特集を組まれました(公式の2006年10月4日付け日記)。