雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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1120『シャドウ』

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

 シャドウとは投影する相手のこと。投影とは自分の心の中に何か好ましくない部分を見つけたとき、それを否認して、それは自分ではないと考え、誰かに押し付けること。本書には Who's the shadow? という副題がつけられているが、ダブルミーニングを持っているように思う。「これは誰のシャドウ?」という登場人物から登場人物への問いかけと、「誰がシャドウか?」という著者から読者への問いかけの二種類がそれだ。どうして秋山がそのように思ったかと言うと、本書では「信頼の置けない人物」が何人も出てくるからだ。十人に満たない登場人物がそれぞれお互いに、正常かそうでないかを疑っており、当然、彼らは自分自身の正常さだけは確信しているがしかし、読者の視点では彼らもまた正常かそうでないか分からない。言ってみれば主人公を含めて、全員が「容疑者」なのだ。
 結局のところ『向日葵の咲かない夏』のような離れ業が仕掛けられているか、もしくは『骸の爪』のように精緻な本格で挑んできているのか……それは秘密にしておきたい。ただひとつだけ付け加えるならば道尾秀介は、今、ミステリ界に新しい風を吹き込んでいる俊英の中の俊英であり、最新のミステリを読みたいならば本書は絶対に外せないということだ。当然のように傑作選入り! 全力で応援していきたい。