雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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1126『対岸の彼女』

対岸の彼女

対岸の彼女

 第132回直木賞受賞作。
 三十歳を少し過ぎた小夜子は娘をつれて公園デビューを果たすが、元来、人付き合いが苦手な彼女はどうにもその空気に馴染めない。なんとなく様々なものに不自由さを覚えた彼女は、娘を保育園に預け仕事を始めることにする。小夜子が勤めることになったプラチナ・プラネットは、葵という女社長が大学を出てすぐに始めた旅行会社である。さばさばした性格の葵はしかし、学生時代はいじめられており、いかにして周囲に溶け込むか彼女は苦心していた。物語は奇数章は現代の小夜子が主人公で、偶数章は過去の葵が主人公となっている。ふたつの物語を経て、彼女たちの成長が描かれている。
 読者の共感を誘いやすい作品であると思った。本読みだからと言って、社会という構造の中に生きているわけで、ちゃんと働かないといけないし、人付き合いもしていかないといけない。登場人物たちは皆、不透明な未来に不安を抱き、すべてがダメになる大いなる予感に脅えつつ、何もかもが上手くいく方法を探している。その点が実に分かりやすかった。難易度が落とされているであるとか、斬れ味を意図的に鈍らせていると言い換えてもいいかもしれない。三十台の主婦が感じているであろう不安感が絶妙に描き出されており、人間関係の難しさ厄介さ面倒さも、実に自然に描き出されており、さらにご丁寧に説明までされているのだ。『空中庭園』と比して悪意の量も少ないし、結末に救いが用意されているので安心して読める。初角田光代や、小説入門に向いているように思う。