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1185『一億三千万人のための小説教室』

一億三千万人のための小説教室 (岩波新書 新赤版 (786))

一億三千万人のための小説教室 (岩波新書 新赤版 (786))

 小説を巡る冒険
 本書は、四年ほど前、まだ高橋源一郎を『メフィスト』で非常に短い連載小説を持っている作家、とぐらいにしか認識していない頃、『原稿の書き方』『文章構成法』『文章表現の技術』『日本語の教室』などと一緒に買った。このときに買った本を何冊か読み、その根底にある基本パターンが分かってしまい、本書を含む何冊かを積んでしまった。今回、本書を読んでみようという気になったのは、日本現代文学を考えたときに、高橋源一郎が無視できない作家にして評論家で、家に彼の本があるのなら読んでおこうと思ったからだ。結論を言うと、小説を巡る冒険、だったと思う。本書には例えば行頭は一字下げする必要があるとか、「!」や「?」の後は一文字空ける必要があるとか、そういう原稿作法的な指導は一切なく、代わりに高橋源一郎が定義するところの「小説」が説明されたうえで、それがいかに素晴らしいかひとしきり賛辞され、そしてそれを書けるようになるかもしれない方法を示唆されている。したがって今すぐ小説を書きたい人にとっての実用性は低いのだが、文学を志しており「急がば回れ」を知っている人にとっては絶好の一冊と言えよう。
 関係のない話を少し。本書に書かれてあることは、ある程度の冊数を読んだり、小説を書いたことがあれば自然と気がつくようなことであり、秋山にとってあまり目新しいことは書いてなかった。むしろ「何を今さら」というようなことが大半だった。しかし、そう思った直後に閃くものがあった。何処でだったかは忘れたが、高橋源一郎が「小説のことが分かるのは、小説を書いている人だけ」と言っていた。きっと、彼がそう言ったのは、本書に書かれてある内容を本当に理解できるのは、実際に、小説を、その手で書き、その苦労と、自分の小説と他者とを争わせること(もしくは面白がらせること、笑わせること)を身をもって実感したことがあるひとだけだと思っているからだろう。ネットで小説を書き始めて八年、果たしてこの期間は短いのか長いのか。