先日「デザイナーという縁の下の力持ち」で鈴木成一を紹介したのですが、id:quiznosさんにブクマ経由で祖父江慎もいいよね! というようなことを言われ大いに同意した次第。一般文芸ですごいブックデザイナーもしくは装丁家を選んでくださいと言われたら、まず鈴木成一か祖父江慎の二択になるのではと思います(と思ったけれど、辰巳四郎や岩郷重力はもちろん、常盤響も捨てがたい……!)。
祖父江慎がどういうデザイナーであるかを説明するなら、うーん、いい意味でも悪い意味でも天才、というのが相応しいですかね。鈴木成一が過不足なく作品の内容や中身を、見たり触ったりすることのできる装丁に反映させるタイプのデザイナーであるならば、祖父江慎は作品の方向性や主張を嗅ぎ取って、それを過剰に増長させて爆発させるタイプのデザイナー。ゆえに祖父江慎がデザインを担当した本は、ちら見しただけで「あ、祖父江慎だ」と分かるぐらい自己主張が激しくて、それが功を奏している場合もあれば、作品を殺してしまっている場合もあります。また、その特徴的なデザインを現実にするために、一般には使われていない紙やインクを使うため、本の値段が数百円ばかり上がってしまうのですよね。他にも奇矯な言動が理解されないことも多く、そういうちょっとダメっ子なところがまた「天才」っぽいですね。
タイトルの「嫌われブックデザイナー」というのは、祖父江慎特集を組んだ『ダ・ヴィンチ』2006年9月号からお借りしました。この号では編集者や営業、書店員、作家が自由奔放な祖父江慎に文句を言うというコーナがあって、爆笑でした。後、探してみたら、ネットにいくつかインタビューが掲載されていますね。
祖父江慎が担当した本で、好きなものはと聞かれたら『新耳袋』ですね。2005年11月に銀座で開かれた祖父江慎+cozfish展に行ったときに見たのですが、カバーに全本文が印刷されているのですよ。したがって拡大鏡があれば、ページを一度もめくることなく読了することが可能です。で、特にすごいのは第十夜だったかな。特殊なインクで印刷されているため、ブラックライトを当てないとただの白い表紙にしか見えない巻があるのですよ。いやー、あれは凄かったー。
と言うわけで、探してきました。帯がありますけれど、上半分はみごとに何も書かれていないように見えますよね。これにブラックライトを当てると、タイトルその他が浮かび上がるのです。素敵な仕事です。
最後に祖父江慎の代表的な仕事と思われる本を、何冊か紹介します。
京極夏彦『どすこい(仮)』
糸井重里『金の言いまつがい』『銀の言いまつがい』
ちょっと変わった天才のタッグ。もはや長方形でもないですね。本棚に入れると傾きます。ちなみに金と銀とで内容は、まったく同じです。違ったみたいです。すみません。
単行本の魅力って、その作者の最新刊を読めるというのもあると思いますが、装丁の魅力も大きいと思います。確かに単行本は持ち運びに長じていますし、廉価ではありますが、デザインの幅が単行本より少なく、背表紙などは出版社やレーベルの制約を強く受けてしまいます。うえに紹介した本のなかでは『ユージニア』は特に単行本で読む方が文庫で読むより恐いでしょう。文庫落ちしている本でも単行本が売れることがあるのは、単行本ならではの魅力がときに値段の魅力を上回るからだと思います。