雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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ミステリの一戒・一則まとめ、および不備の指摘

 おれせんさん*1のまとめではやや不充分に感じたので、まとめを作っておきました。
 また、一部、エントリが重複していますが、id:sirouto2さんとid:sindenこと秋山は、それぞれミステリの一戒・一則を考える何を以ってフェアとするか、および倒叙の魅力の中で付記や追記というかたちで書き足しているので、時系列順に分かりやすくあることを重視して作りました。

もうすでに一戒・一則は破られたのでは?

 最初に結論を置いておきます。

東京と神戸と完全に読みが両立する状態で、作者が後で神戸と書いたから神戸が正解(東京と書くことも可能)、という解の一義性がない場合、完全にフェアとは言えないという立場です。まあ一戒・一則から読み取れることではないので、別に注釈が必要かもしれません。

「解の一義性」が意味するところがいまひとつ不明確ではありますが、「東京と神戸と完全に読みが両立する状態」というのがまさに叙述トリックで作られたことを鑑みるなら、叙述トリックを含めるミステリは一戒・一則を満たしておらず、推理可能ではあるが特定はできず運に任せるしかないので、フェアとは言えない。したがって、sirouto2さん提唱によるミステリの一戒・一則は、フェアの指針にはなりえないQ.E.D.……じゃないですかね。
 後、自説を含みますが、この結論を補強する文をいくつか引用しておきます。

叙述トリックは他のアリバイや密室などと異なり、トリックとしての次元が違うので、通常のミステリを対象とした一戒・一則などで拘束することが出来ません。何故なら、犯人が探偵に対して仕掛けるのがトリックであり、作者が読者に対して仕掛けるのが叙述トリックだからです。「推理に必要な情報が読者に対して十分に示されている」が(必要)条件となっているフェアな推理小説において「推理に必要な情報を読者に対して隠蔽する*2」叙述トリックがフェアになどなるわけがありません。前提条件が違うのですから土台、無理な話ですね。
 叙述トリックをフェアにしたいのであれば、ミステリの一戒・一則ではなく叙述ミステリの一戒・一則が求められるでしょうね。

 本を最後まで読んで、男性のように描かれていたCが実は女性だったことに気づき、読み返してみたら確かに女性と思わせる記述があったとします。けれど、それはただ単に「なっ、おれズルしてなかっただろ?」という言い訳に過ぎず、結果論です。何故なら、叙述トリックを疑いだしたら、それこそ無限の可能性を考慮しなければならないからです。叙述トリックは男女トリックだけではありません、時間トリックや空間トリックなどもあります。第一章と第二章の間には実は数年の間があるのかもしれない「何故なら警部のヒゲが伸びていたから!」であるとか、第一章と第二章に連続して出てきた事件現場は実は違うのかもしれない「何故なら第一章では転がっていた壜が、第二章では転がってなかったから!」であるとか。疑いだせばきりがありません。そして無限の解釈・無限の推理を許してしまった時点でフェアと言えるのでしょうか?

「あー、それはどうかな。叙述トリックを使っている場合は、地の文に明示的に書かれた事柄と矛盾しない限りはフェアだということになるんじゃないだろうか」
「では、叙述トリックを使っている場合と使っていない場合と、フェアプレイのルールが違う、ということなのかい?」
「そうなるね。いかなるミステリにも同じフェアプレイのルールが適用されるべきだと考える理由はないんだから」

「フェア」というのは推理可能だという意味で、推理を可能にするには、推理に必要な情報の記述が条件になっています。逆に、推理不可能(弱い意味では「偶然的な解」)だがフェアだという場合、そのフェアさが何に由来しているのかの説明は必要でしょう。

追っていないひとのために流れ説明

 ざっくり説明しますよ。
 まず、ビジネス書の編集者であるらしい方が、ノックスの十戒ヴァン・ダインの二十則を「推理小説を書くのに、こんなに『ルール』があるって知ってた?」と軽い調子でボールを投げられました。
 これを受けとったのがsirouto2さん。「現代ミステリ」において十戒も二十則も不要である。一戒・一則のどちらか片方だけで大丈夫と提唱されます。

読者の知らない手がかりによって解決してはいけない。

事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。

 しかし、現実に上記の一戒・一則を満たしていないミステリは山ほどあります。
 不備を指摘されたsirouto2さんは「現代ミステリの条件」として提唱した一戒・一則を、「フェアな推理小説の(必要)条件」と言いなおしましたが、その際に叙述トリックを用いたミステリもフェアに含まれると述べられました。
 フェアの定義はひとそれぞれではありますでしょうが、やはりこれも不備を指摘されました。
 で、これに対してsirouto2さんは「解の一義性がない場合、完全にフェアとは言えない」と答え、叙述トリックを用いたミステリが完全にフェアとは言えないと認められました。←今ここ

X問題に関してあと今後に対する希望

 id:trivialさんとおれせんさんが少しだけ述べた『容疑者Xの献身』がこの議論のなかでどういった意味を持ってくるのか説明しようと思います。
 要はこの作品がひとつの試金石になるのですよね。『容疑者Xの献身』が本格か否かという論争について回るのが、この作品がフェアかアンフェアかということであり、この作品を認めるかどうかでそのひとのスタンスがある程度は推し量れるようになるのです。
 また、ネタバレに抵触するのを避けるためというのもあるでしょうが、現時点までにおいて触れられた作品が『アクロイド殺し』と『ひぐらしのなく頃に』の2作ほどしかありません。どちらもあくの強い作品なので、やや参考にならないと言うか、具体性に欠けるように思いました。
 なので、もしうえの小見出し「もうすでに一戒・一則は破られたのでは?」に対して反論されるのでしたら、観念的なレベルではなく、何かしら文脈に沿った作品を取り上げて、それを踏まえて一戒・一則がフェアであるか否かの指針として相応しいかどうかを説明していただければ幸いです。

*1:id:FTTHさん、すがまさひ子さん、すがまさひとさん、どれにするか迷ったのですが、おれせんのひとと呼ぶことにします。