雲上四季

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

ネタをネタと見抜けないひとには不向きなミステリランキング

 昨年に引き続きミステリ特集を組んだPLAYBOY』2008年1月号を買ってきました。
 ちなみに『PLAYBOY』を買うのは初めてです。帰宅してからぱっと開けてみたら、いきなり金髪の美女が全裸で微笑んでいて、今月号の付録であるらしいカレンダーが滑り落ちました。次の瞬間、妹が部屋を訪ねてくるとも限らないので、可及的速やかに処分致しました。なんとも心臓に悪い雑誌です。
 で、肝心のミステリ特集ですが、中々、気合を入れて作ってあるように感じられました。主な見所としては、やはり5人のミステリ評論家によるオールタイム・ランキングとして作られた「日本のミステリー・ベスト100」と、今年度のランキングである「第1回 PLAYBOYミステリー大賞」でしょうか。
 いやー、しかし、これがまたひどい! 読みながら何度も「これはひどい」と呟いてしまいました。理由は後述。

PLYABOYが選ぶ、国内オールタイム・ベスト・ミステリー100

 昨年「ここ10年で最も面白いミステリー・ベスト100」を編んだらしく、今年は「ここ100年で最も面白いミステリー・ベスト100」であるらしいです。
 選者は大森望北上次郎日下三蔵新保博久関口苑生の5人。
 正直なところ、選者の名前を見た時点から、なんだか嫌な予感がしていたのですが、掲載された座談会の様子を読んだところ、まさに危惧していた通りの状況が展開されていて溜め息をひとつ。そして、ふと気づきました。そうか、このランキングはネタなのか、と。ネタをネタと見抜けないひとには不向きだけれど、ネタをネタとして楽しめるひとには最適のランキングかもしれない。そう思い直して座談会の続きを読み進めたところ、いやあ、面白い。「これはひどい」と連呼しながら楽しませていただきました。以下、特に面白かったところ。

大森 とりあえず、ベストテン内にはSF系で2枠いただきたい(笑)。
北上 いや、それは4、5、6位、2位とか半分ぐらい決まって、「そろそろSFに1枠くれ」っていうんならわかるけど、まだ候補作も出ないうちに……。
関口 といって、冒険小説に3枠とか言うんだぜ。
北上 冒険小説に3枠は当たり前だろ(笑)。

関口 これ、例えば今まで言われてきた三大ミステリー、『黒死館殺人事件』(小栗虫太郎)、『ドグラ・マグラ』(夢野久作)、『虚無への供物』(中井英夫)、とか全然入ってないけど、それはいいのかな。
日下 結局そういう定番的なものは一応評価するんだけど、こういう場になると、もっと自分の好みを主張したくなるんですよね。
新保 今までのオールタイム・ベストというと、『獄門島』(横溝正史)、『点と線』(松本清張)、『虚無への供物』が上位3位の常連だったんだけど、そういう見飽きたリストでないものを作るというのにも意義はあるでしょう。
北上 ただ、それらが20位までにも入ってないと、そういうものを機械的に排除したマニアックなリストかと思われかねない。逆に、「え、こういう名作が17位なの? じゃ、この1位ってすげえじゃん」とか説得力が増すわけですよ。

 ほんとうはもっといっぱいあるのですが、あまり引用しすぎるときりがないので、これぐらいにしておきます。
 肝心のランキングをここで紹介するのは避けておきます。次号が出るまで待ってから改めて紹介したいなと思います。ちなみに既読率は100作中18作でした。

第1回 PLYABOYミステリー大賞

 オールタイムベストに反し、こちらは面白かったです。
 座談会中に何度か「PLAYBOY的には」「この賞向き」といった発言もあり、掲載誌を意識している節もありました。選者は大森望香山二三郎杉江松恋の3人。以下、座談会中で良かったところをご紹介。

杉江 私の一押しは、『カカオ80%の夏』です。女性作家の書いたハードボイルドとしては、宮部みゆき『誰か』と並ぶ、ここ10年の収穫ですよ。10代の女性を主人公にした一人称ハードボイルドは本当に珍しい。一度はハードボイルドを卒業した読者も、これを読めば新鮮な気持ちで再入門できる気がするんですよ。
大森 うーん。よくできてるとは思うけど、ヤングアダルト叢書という器で得をしてる面もあるし、『警官の血』や『悪果』という重量感のある作品に勝つのは、ちょっと無理でしょう。ランキング入りに異存はないけどね。
杉江 妥協します。

杉江 あとは近藤史恵『サクリファイス』ですか。日本では珍しい自転車競技の小説です。ディック・フランシス的なスポーツ小説の要素もあって、この賞向きだと思いますが。
香山 そうだね。それは入れるということでかまわないでしょう。

 永井するみ『カカオ80%の夏』はネットでも人気の作品ですが、知らない作家であることとハードボイルドであるらしいことから敬遠していたのですが、杉江松恋が太鼓判を押すとなると読んでみたいなと思いました。後、近藤史恵『サクリファイス』を説明するのにディック・フランシスを引くのも自分にはなかった発想だったので驚きました。他にも新しい発見があったり、教えられるところが多かったです。良い座談会でした。
 こちらはランキングを国内だけ紹介したいと思います。怒られたら消します。

1位 伊藤計劃虐殺器官
2位 佐々木譲『警官の血』
3位 佐藤亜紀ミノタウロス
4位 西澤保彦『収穫祭』
5位 近藤史恵『サクリファイス』
6位 黒川博行『悪果』
7位 永井するみ『カカオ80%の夏』
8位 小川勝己この指とまれ GONBEN』
9位 海野碧『水上のパッサカリア
10位 福田和代『ウィズ・ゼロ』

 と言うわけで、ランキング1位にして、第1回 PLYABOYミステリー大賞受賞作は『虐殺器官』でした。著者インタビューが掲載されていますので、伊藤計劃のファンの方は要チェックです。
 海外部門に関しては、これもオールタイムベストと同じく次号が発売されてから。

三大ランキング予想

 芥川賞直木賞予想屋で知られる大森望が、このミス・本ミス・文春ミスの3大ランキングをそれぞれ予想しているのですが、おまけでこれもご紹介したいと思います。これも国内編だけ。

このミステリーがすごい!』予想
1位 佐々木譲『警官の血』
2位 有栖川有栖『女王国の城』
3位 三津田信三『首無の如き祟るもの』
4位 山沢晴雄『離れた家 山沢晴雄傑作集』
5位 黒川博行『悪果』
6位 宮部みゆき『楽園』
7位 近藤史恵『サクリファイス』
8位 今野敏『果断 隠蔽捜査2』
9位 桜庭一樹赤朽葉家の伝説
10位 飯野文彦『バッド・チューニング』

本格ミステリ・ベスト10』
1位 有栖川有栖『女王国の城』
2位 三津田信三『首無の如き祟るもの』
3位 山沢晴雄『離れた家 山沢晴雄傑作集』
4位 柄刀一『密室キングダム』
5位 西澤保彦『収穫祭』
6位 米澤穂信遠まわりする雛
7位 歌野晶午『密室殺人ゲーム王手飛車取り』
8位 米澤穂信インシテミル
9位 道尾秀介『ソロモンの犬』
10位 石持浅海『心臓と左手』

週刊文春
1位 宮部みゆき『楽園』
2位 有栖川有栖『女王国の城』
3位 松井今朝子『吉原手引草』
4位 曽根圭介『沈底魚』
5位 東野圭吾『夜明けの街で』
6位 佐々木譲『警官の血』
7位 桜庭一樹赤朽葉家の伝説
8位 海野碧『水上のパッサカリア
9位 今野敏『果断 隠蔽捜査2』
10位 真保裕一『追伸』

 特にこのミスの予想は、鋭いように思います。ところで、以前に書いた本ミス予想エントリを見返してみたら、大森望と3位までが完全に被ってました。だから何だというわけではないですが。