雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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第19回西荻ブックマーク「ザ・メイキング・オヴ『足穂拾遺物語』」レポート

 筑摩書房から『稲垣足穂全集』が刊行された後に、新たに発見された101篇と解題と称された稲垣足穂論からなる『足穂拾遺物語』の刊行を祝して著者や編集者などによる座談会が西荻にて行われ……る予定だったのですが、刊行が遅れてしまったために刊行前夜祭として開催され……る予定だったのですが、未だに刊行が決まっていないため作っている最中の本について語る座談会を見てきました。と言うわけで、半年振りの西荻ブックマークです。
 いきなり自分語りのようで恐縮ですが、稲垣足穂はたしか高校のときに『一千一秒物語』だけ読みました。当時の感想としては「悪くはないけれど、多分に繊細で、女の子向きだなあ」といったものでした。その後、稲垣足穂は読んでいなかったのですが、今回のイベントに合わせて他の作品に目を通したところ、その引き出しの多さに驚きました。代表作とされる『一千一秒物語』だけを読んで稲垣足穂を理解できたつもりになって、他の著作に手を伸ばさなかったのは失敗だったなと反省しました。とは言え、それでも全作を読みたいと思わせるほどの魅力までは覚えませんでした。

一千一秒物語 (新潮文庫)

一千一秒物語 (新潮文庫)

 イベントの前日までに主な作品を読むことが出来たので、仕上げとばかりに『ユリイカ 2007年09月臨時増刊号 総特集 稲垣足穂』を手にとったのですが驚愕しました。稲垣足穂と親交のあったひとたちの対談や、熱心なファンによるエッセイや評論が掲載されているのですが、誌面から彼らの稲垣足穂に対する愛が溢れかえっているのです。いや「○○に対する愛が感じられる」というのはある種の常套句で、あまり説得力が感じられないかもしれませんが、もう本当に誌面から彼らの愛が気持ち悪いぐらいに漂ってきているのです。品のない表現をすると「このひとたちはどれだけタルホが好きなんだ!」と叫んでしまうぐらいです。ただ、興味深いのは、書いているひとたちの主張が微妙に異なっていたことです。稲垣足穂という人間に惚れこんでいるひともいれば、少年愛に共感しているひともいれば、この作品が素晴らしいと褒め称えているひともおり、一様でないのです。ふしぎなことです。
ユリイカ2006年9月臨時増刊号 総特集=稲垣足穂

ユリイカ2006年9月臨時増刊号 総特集=稲垣足穂

 まあ、そういった事情で「タルホはどうして人気なのだろう?」と疑問を抱えながらイベントに挑みました。
 以下、イベント中に出た発言のなかで印象深いものを幾つか。

「タルホ本には変なものが多いが、この本はとにかくアホな本になる」
「編者としては、必然的に原稿が集まってきて101編になったように思う」
「タルホさんの速さに追いつけないんだ!」
「タルホは多面体のひとで、ひとによってどこに共感するか異なる」
「光を投げかける角度によって色が千変万化する」

 改めてノートを読み直してみると、オフレコっぽいものばかりでここに書けるものがあまりありません。なので、会場の雰囲気に関して。
 今野スタジオ『MARE』のイベント会場は40人ほどが入れる部屋で、立ち見を含み30人ぐらいの観客が、高橋信行、高橋孝次、羽良多平吉郡淳一郎木村カナという5人のゲストの座談会を眺めるといった体でした。照明はどことなく薄暗く、空調的には問題なかったのですが、精神的な意味で熱気がありました。最前列に座っているひとはゲストと1メートルと離れていないところにいて、ゲストの方々の興奮や熱意がじかに伝わってきました。最終的にゲストのひとりひとりが稲垣足穂の魅力を語っていたのですが『ユリイカ』を読んだとき以上に、心が動かされました。最後の方で、羽良多平吉が「今日からタルホムーヴメントが発生すればいいな」と言っていましたが、まさに今日ここから何かが始まるんじゃないかという予感がありました。
 また、当日は見本誌やゲラ稿の他に、金光寛峯氏が持参した「椿實の快速調」の直筆原稿などが回覧され、充実した時間を過ごすことができました。
 結局、稲垣足穂がどうしてこんなに一部に人気なのか、その理由は判明しませんでしたが、好きなひとの話を直接、聞くことで何となく分かったような気もします。『足穂拾遺物語』は予価が学生には果てしなく厳しい値段でしたが、高橋信行と高橋孝次による解題が読めるのなら高くはないかもと思うので一冊、買おうと思います。覚悟を決めて。
 次回の西荻ブックマークは4月20日、ゲストはブルボン小林とのことです。


……あ! 音羽館で貰ってきた山本タカト展『吸血鬼逍遥』のパンフレットで見つけましたけれど、2月9日に、山本タカトがゲスト、今野裕一が司会で、高原英理東雅夫が出るトークショーがあるじゃないですか! これは絶対に行かないと……。

追記

 遅れましたが、刊行されています。

足穂拾遺物語

足穂拾遺物語