雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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文学フリマで買ったり貰ったりしたものについて語るときについて語ること

 順不同。
 西瓜鯨油社『コルキータ』牟礼鯨さん(id:murekujira)の小説は前々から読みたいと思っていたので、文庫本サイズで持ち運びが手軽ということもあって、文学フリマで買った本のなかではいちばんに読みました。が、これが予想を凌駕する大傑作で秋山大興奮。コルキータという、関係を持つと40日後に死んでしまうという娼婦を巡る物語なのですが、これが架空の歴史をなぞるように綴られていくのですね。雰囲気として近しさを感じたのは『サガフロンティア 2』でしょうか。抜群の魅力を持つコルキータと、それに引き寄せられてしまう哀れな男たちの悲愴。これが、噎せ返るような匂いたつ南国の果実の腐臭のような文体と、見事なまでにマッチしているのです。今年に読んだ小説のなかでは、一、二を争う傑作。西瓜鯨油社複雑系これは『コルキータ』が激烈に面白かったので、即座に読み始めたのですが、或る娼婦という一貫した軸のあった『コルキータ』と比較して、賞編集のこちらは、今ひとつの感が否めませんでした。それでも強く記憶に残っているのは「エディポ」「喰われるナパパラ」「鳥籠と揺籠」「男の平和」「鳥と鳥類学者」あたりでしょうか。こうやって振り返って見ると、面白い作品も多かったですね。ダール神や破瓜祭といったキーワードから、同一の世界観であると分かるのですが、掌編を読むたびに、少しずつ世界観の外枠が広がっていく感覚が面白いですね。もっと、この南国架空世界に浸っていたいです。Escape『幻想愉悦短編集 II』前作が面白かったので、2巻も買ってみました。今回は1巻の桐生さんと朱羽さんだけでなく、蒼月さんと土方さんも加わっています。以下寸評。朱羽「ビフロスト」これは、初っ端から今ひとつで心がくじけそうでした。世界観は面白そうなのですが、どうにも底が浅いように感じられました。桐生「絡繰扉」まあ、と言ったところですかね。土方「超古代文明大陸不可思議調査部」いやあ! これは面白かったですね。なんかインチキくさいタイトルで、警戒しながら読み進めていたら、いきなりライトな文体で「なんじゃこりゃ」と思っていたら、意外にリーダビリティが高くて、さくさく読んでいくことが出来ました。これはもっとシリーズ展開してもいいかなと思います。蒼月「ある冬の日」これもいいですね。最初は後ろ向きな作品だなあと思っていたのですが、読めば読むほどに味が出ると言うか、後半はぐいぐいと作品に引き寄せられました。もっと長くても良かったですね。桐生「珈琲」これも、まあ、と言ったところですかね……。「脳力向上薬」うーむ……。「旅情」許します! 何様だという感じですけれど、2連続で首を捻ってしまう作品が続いて、これも最初は今ひとつだなあと思ったのですが、もう博士シリーズなら仕方がない。博士なら止むを得ない。朱羽「鰯の頭も信心から」これは抜群に面白かったです。最初はライトノベル調の文体に溜息が出たりもしたのですが、基礎となる文章力があるのか、ヒロインのふしぎな口癖も中盤からすっかり好きになってしまいました。展開も堂に入ったものでしたし、この本のベストではないでしょうか。土方さんのも面白かったですし、このシリーズは、もっと読みたいですね。闇擽「錯乱せし群青」主に加楽幽明くんがWeb幽に投稿した怪談や500文字の心臓に投稿した超短編からなる掌編集。幻想怪奇の粋を集めたような一冊で、広い行間からは少ない文字数に賭ける意気込みが十二分に感じられますし、一編ごとに挿入される白黒写真も雰囲気を出しています。気に入ったのは「漂白の聲」。これは難しい漢字が雨あられと使用されて、読み始めこそPCを手に入れたから自分の知っている限り難しい漢字を使って小説を書いてやるぜ! という雰囲気が漂っているものの、文章の息が途切れないので、著者の加楽幽明さんがけして若くないことと、むしろ美文に精通していることがすぐに分かるのですよね。最後の2行は蛇足かなと思わないでもないですが、これで原稿用紙50枚書いて貰えれば、大傑作は間違いなし。まろびでる会『珍古今和歌集 下品短歌二〇〇九』帯に書かれていた「ちんちんをタクトに見立てて独裁者やがて左に逸れる枢軸」があまりに傑作で、即座に購入を決めた。まあ、でも正直なところ、帯に引用されていたほどの傑作は、本文には見かけなかった「午後3時ちんこが低くつぶやいた たまにはこっちに飲みにこないか」くらいかな。やまいぬワークス『中野さんと僕』秋山絶叫、これは素晴らしい、傑作です。広川伊砂緒さん(id:futon5656)がはてなで連載していた連作に加筆修正を加えたものなのですが、エピローグが追加されていて、これが破壊力抜群でした。確かに振り返ってみれば、本文に中野さんの正体を指し示すキーワードは、幾つか含まれていました。秋山があまり○○○を見ない人間であるが故に、その伏線を拾い上げることが出来ませんでしたが、分かるひとが読めば一発でしょう。しかし、敢えて、まったく分からなかったひとりとして感想を書きます。このエピローグの威力は絶大です。なにしろ、中野さんに関する描写があまりに現実的で、中盤を過ぎた頃には、中野さんはすっかり現実に存在する中野さんになっていたのです。それが、主人公の想像上の友人であっただけでなく、○○○○○であったなんて! いやあ、打ちのめされました。面白かったです。山猫亭『えのころぐさ 5』知人が所属していたサークルの発行したものということで買ってみました。装丁は素晴らしく完成度が高いのですが、残念ながら中身の小説は、それについて来ていないと感じました。以下寸評。Ram-F「ファーストミステリ」いちばん面白かったのは、これです。小説として、ミステリとして面白かったと言うより、単純に完成度の問題。充分に読めた、という感じでした。MIVI「赤い境界の話」まあ。MIVI「青い目の人形は踊る」まあ。舞姫「オタク街道珍道中」これは許せます。オタクターム満載で、脚注をつけているところに自意識過剰さを感じますが、面白いものを書こう/面白いものを読ませようという意識は、十二分に感じました。意欲作、でしょう。らかんれん『らのさい管理人がこんなに可愛いわけがない』装丁の完成度が意味不明なほどに高いです。挿絵やデザインも他の同人誌と比較して抜きん出ていますし、素晴らしいスキルを持った方々が、特異な方向に、その才能を発揮してしまったようです。以下寸評。長屋言人「ことりんコミュニケイソン」ことひとさん(id:kazutokotohito)の小説を読むためにこの本を買った訳ですが、意に反し難易度が高かったです。のべるんかわいい。でゅろん「動け!動け!動け!」トーリーの破天荒さに反し、文章力の高さ。無駄遣いしてるなあと感じました。のべるんかわいい。月季「そうだ、温泉に行こう」テンポ良し。のべるんかわいい。舞風ゐんど「僕のメイドがこんなに妹のわけがない」断章まで読んで、なんかのべるんが異様に可愛いなあと思っていたら、ここに来てその可愛さがさらに炸裂。しかも先を読ませぬ展開が激烈に面白かった。特に終盤、機械仕掛けの神が発動する場面で泣きそうになり、その次のページで秋山絶叫ですよ。最終ページのことりん業務日誌も、いい具合に締めているし。これは最高に面白かったです。INN「輝きを求めて」実体験話ですかね、良かったです。まろん「ラ管連、温泉へ行きたる縁」でるたんかわいい。龍花「むにょるげの被虐日記」何これ面白い! 設定が語られずにいきなり始まるのだけれど、どうやらルカという可愛らしい幼女の頭に、むにょるげという怪生物が寄生している模様。このふたりが色んなところを訪ね歩き、その度にむにょるげが苛められるのだが、この繰り返しが実に素晴らしい。声に出して笑ってしまった。のべるんかわいい。小森圭「らのさい管理人がこんなに可愛いわけがない」これは素晴らしかったです。収録作のなかでは、いちばん真っ当に小説小説していました。なにより、のべるんの可愛さが「僕のメイドがこんなに妹のわけがない」以上に炸裂していました。特に素晴らしかった名言をひとつ「我は『吸話鬼』、舞風=ヴィントノア=のべる。全ての『物語』は、我の力となる!!」のべるんかっけえ!! 後、224ページ以降の展開も素晴らしいですね。特にでるたんとぶつかるシーンとかは、涙が出そうになりました。時載りと文学少女のハーフって、考えてみれば凄い本読みですね。最後に本全体の感想ですが、秋山がお会いしたことのある方は、全体の半分くらいなので、あんまり内輪ネタは分かりませんでしたが、とりあえず、のべるんが可愛かったので無問題であります。ずんだ文学の会『ずんだ文学 第二号』東北大学の四つのサークルが結集して作った同人誌、第2弾。特集として「想像力の文学 全レビュー」を組んでいて、ある意味、これを目当てに買ったのですが、小説の方が面白かったです。書評をするのであれば、その作家の著作のすべてを読んでからにして頂けると大変嬉しい。以下寸評。禾原葉一「羅針盤がなくても」これは良いSF短編。小林泰三『酔歩する男』のオマージュなのか、時間旅行の題材を上手く取り込んだ良作。黒井あやめ子「Virtualized girl」面白くなる可能性を秘めているのにブレイクスルーできないのは、きっとリアリティが足りないから。佐藤白熊「線対称・点対称」嫌いじゃないです。シンプルな作品で、いかにも学生が書きそうな展開と登場人物なのだけれど、それだけに等身大で非常に好感の持てる文章。面白かったです。どはつてん「最新パーティ」読みきれませんでした。すみません。栗原草「倫子」これは惜しい。挑戦しようとしていることが分かった瞬間に震えが走ったけれど、どうしようもなく技術力不足。勿体ない。この離れ技が成功していれば、巻末に相応しい、素晴らしく尖がったミステリになっていただけに残念で仕方がない。次に作品を書いたならば、また読みたい。佐藤ドールハウスの童話』佐藤さんの短編集。以下寸評。「首なし王子」素晴らしい! 何しろ、最初の3文で読者をびしっと引き寄せるのだ。「君の知らない小さな国が、ヨーロッパの北のほうにありました。日本でいえば青森と同じくらいの、寒い地方です。人の多さでいえば、東京ほどではありませんが、たくさんの人が住んでいました」これですよ、これ! これは、ふつうのひとには中々、書けませんよ? だって、語り口調の童話をやろうとしているのに、いきなり青森とか書いちゃうんですよ? でも、これ読み手にとっては凄まじく分かりやすいですよね。一発で、ストン! と理解できます。こんな文章が書けるなんて凄いなあ、佐藤さん。物語の方は今ひとつでした。予定調和的と言うか、いかにも童話な……いや、童話だからなんですけれど、驚きに欠けました。「みのむし姫」好きですけれど、パワー不足。わがままなお嬢様が主人公なのだけれども、このお嬢様が、わがままであるだけのオリジナリティを持っていないように思えました。「四姉妹と三つの墓」これは戦慄の嵐。考えてみればタイトルや表紙が、どこか禍々しくて、いかにも童話っぽい、いい話が2連続で続いていたからと言って、最後の1編もいい話であるとは限らない訳です。完全にやられました。もう泣きたい。佐藤さんめ、怨んでやる。PLAY-BOX PROJECT『PLAYBOX FREEPAPER』フリーペーパー、なのだけれど28ページのコピー誌。新刊レビューとして、文学フリマで初頒布の新刊のレビューが主目的ですが、小説も収録されていたので読みました。レビューは読みづらかったので読んでいません。以下寸評。陸条「分身」寛和元年の話、条くん(id:inhero)がこういう話を書くとは思わなかったので、たいへん面白く読ませて頂きました。結末の下りは納得いきませんでしたが、意欲作ではあると感じました。夏目陽「Bittersweet, Sweetheart, Heartbreaker e.p.」劣化。と言うのが第一印象でしたが、再読してみたらそんなでもありませんでした。Lumie're『白い彼女と僕』良かったです。『或る跳びはねた熱帯魚の場合』を読んだときも思いましたが、鳥久保咲人さんの文章は、無条件に良いですね。なんとなく黒史郎『獣王』を再読したくなりました。Lumie're『Cogito, ergo, sum』良かったです。24ページ「その男は口元を歪ませた」が特に好きです。秋山はどちらかと言うと、この社長が立っている側に立っているので、彼の話は分かりますし、自分でもすることがあります。故に、この「歪ませた」という表現は、良いなと思いました。「その男は嘲笑った」とか「その男は、しかしショックを受けたように悲しい顔をした」とかでは駄目ですね。「歪ませた」素晴らしい。この言語選択のセンス、常人が神から与えられるものではありません。エディション・プヒプヒ『クワエウィース?』よく分からなかったので、淡々と文章を読み、淡々と面白く読ませて頂きました。わりと最初の方でクワエウィース? とは何か? クエスチョンマークまででひとつの言葉なのか? みたいな考察があるのですが、嗜虐が効いていて好きです。明日から休講です。『明日から休講です。』秋山が大好きなうさぎ鍋竜之介くんのアンソロジィ短編集。確か、牟礼鯨さんの『コルキータ』を読んだ後に「面白い小説の気配がするぜ、ぐへぐへ」と手に取りました。以下寸評。うさぎ鍋竜之介「彫刻家の娘」面白いに違いないと思った小説が、予想通りに面白かったときは、思わず喝采をあげてしまう。けして派手な小説ではありませんでしたし、キャラクタ性にも特化していませんでした。むしろ、狂気を静謐な筆致で描き出したような鮮やかな、真っ赤な、あるいは真っ青な小説でした。リアリティに富んだ小説を読むとき、空想は現実を凌駕しうるのだと改めて理解しますね。すみやき「モリナガの陰謀」面白かったです。竜之介くんの後では色褪せて見えてしまう感が否めませんが、それでもいい具合に女子していました。こういうの、嫌いではないです。須江岳史「私の読めない物語」すみません、読みきれませんでした。みいこプロ『ミルクホールで苦い恋(上)(下)』乙女チック官能小説、秋山が偏愛している姫野由香さんの最新作。上巻はレイプ物で、うおおおと驚いたけれど、下巻では仲良くなって和姦になっていて、これが官能小説のテクか……と思い、唸った次第。GYONISSO『もっと大好き魚肉ソーセージ』ずみさんよりご進呈頂きました『大好き魚肉ソーセージ』の続編。ずみさんの素敵漫画、森皿さんの素敵掌編、荒井さんの素敵4コマが収録されています。ここでは、小豆クリーニングの荒井小豆大先生の「無題」を取り上げたいと思います。これが、もう酷いんですよ。魚肉マンという中年のオヤジが股間に魚肉ソーセージをぶら下げていて、お腹空いたと泣く幼女に「わしのソーセージを食べたらええ!」と股間を顔に近づけさせたりしているのですが、もう酷い。酷い。酷い。しかもページを追うごとに、この酷さがヒートアップしていくのです。もう荒井先生は、どこまで行ってしまうのかと泣き叫び喚きたくなるほどに!! そして、ついに最後の4コマ。秋山はここで目を剥きましたよ。だって、いきなりの社会派! 卑猥な言動を繰り返していた魚肉マンが、いきなりの地球環境物に変わっているんですよ! 涙せざるを得ない……。チャンコ『ネイキッド・ギャルソン』トムシズって何だろうと読み進めていったら、シズって『デュラララ!』の静雄か! と。主婦になっていました! この発想がすごいっすよ、チャンコーハンさん。西瓜鯨油社『タロティスト』西瓜鯨油社の売り子、中澤いづみさんによるタロットを題材とした小説。これは、奥深い。一度、読んでから、さらりと読んでしまったことを後悔しました。機会があれば、他のひとの感想も聞いてみたいです。これは、もしかしたら捨てずに手元に残しておいて、何度も繰り返し読むべき小説かもしれません。Nth Library『雪の花言葉何よりも驚いたのは、殺人事件が発生したこと。このシリーズは、今まで日常の謎を取り扱ったものであり、探偵はその謎を解き明かすために推理をしていたので、殺人事件という、それまでの小さな謎と比較すると遥かに大きいものを前に、どう心理的矛盾に決着をつけるのだろうかと思った。まあ、実際には、さらりと流されていたけれど。何処だったか、ある箇所が劇的に素晴らしく、その一文を書けたことひとさんは凄いなあと思ったのですが、忘れてしまいました。まあ、この間、飲んだときに本人に直接、伝えてあるので、もう秋山のなかから失われてしまってもいいわけですが。……あれ、いま思いついたけれど、もしかして「六花の白を緋色に染めて」とリンクしてる?? ONE『カエルヒト、カワルヒト』著者名が姓だけ、かろうじて後書き本文に含まれるという、書き手の情報が排斥された一冊「帰る人」と「変わる人」の2編を収録。「変わる人」の結末は好きです。Anonymous Bookstore『ハラスメント・バースデー』市川憂人さん(id:yu_ichikawa)の、カルテットシリーズの最新作の、言わば出題編。相変わらず深読みしない秋山は、何も勘繰ることなく、市川さんは、ほんとうにオタクで百合が好きで、えろいこと考えるなあーと、肩のちからを抜いていたら、終盤でまさかの怒涛の超展開。「なんと、ミステリであったか!」と驚いた次第。しかし、けっこう読み飛ばしてしまったし、伏線を伏線として認識できていないので、文庫化された際に再読することにします。今度はちゃんと読みますとも。『どろっ』目の前にあったブースで、なんとなく気になって手にとって見たら、収録されている小説や評論がエッセイのタイトルがこんな感じでセンスを感じた「バルトアンデルス」「眼球ソテー」「死を笑う」「肉を蝕む 粕谷栄市」「イヴァリース考」「恋する緑タイツ」「すばらしい地球外のいきもの」概ね面白かったと。おまけで頂いた男の娘写真は、申し訳ありませんが速攻で捨ててしまいました。アトリエそねっと『「セカイ系」から遠く離れて』踝さんのお知り合いらしい清瀬六朗さんの新刊はセカイ系をテーマとした評論。「遠く離れて」というキーワードの説明から入っているのですが、非常に感銘を受けました。恋人と時限爆弾『水晶の舟』NariharaAkiraさん(id:narihara)の旧作リメイク。津原泰水の解説つきだったこともあり、わりと早い段階で読んだのですが、面白かったです。若々しさ、瑞々しさ、荒々しさがセンシティブなナイフのような。オオキモリ屋またはafternoon cafe『Mochi-tsukiシングル』大気杜弥さんが、ひとりで餅つきをしたらしく、その様子を面白おかしく小説にした作品。10年くらい前のライトノベル文体が懐かしい。虚影庵『鳥籠草』これは面白かったです。花や鳥といったテーマのときの異形コレクションに載っていてもおかしくないような、極めて錬度の高い怪奇幻想でした。本編の素晴らしさもさることながら、奥付の写真もいいですね。見た瞬間にゾッとしました。島田詩子さんのベストに近い作品なのでは。絶対移動中『絶対移動中 Vol.7 IT文学』伊藤鳥子さん(id:torico)編集の合同誌、以下寸評。蜜蜂いづる「フラグメンツ」チャットログをそのままコピペしたような形式の作品。タイトル通り断片を繋ぎ合わせたような作品で、すべてを組み合わせると一枚の大きな絵になるのかと思いきや、そういうわけでもない模様。「特定した」の一言には全身鳥肌。こわいにゃあ。森皿尚行「佐々木先輩のケータイ小説軽快な科白回しが心地よかったです。性別トリックはわりと早い段階で分かりましたけれど、それでも二度読ませる面白さがありますね。鳥久保咲人・中澤いづみ・牟礼鯨「中澤いづみを探せ!」未読。牟礼鯨「情報時代の愛」狂った愛情を描くのは上手いと思ったけれど、陰陽の点滅による二進法から、塩基配列による四進法に移るという下りで首を傾げてしまいました。そこは量子コンピュータでしょう! と思ったり。橋本賢一「クリアなざわめき」割愛します。高橋百三「復元する私」Googleマップに撮影されてしまっている人々のことを思いました。彼らは自分が気がつかないうちに撮影されて、Googleマップに地図情報として記載されてしまっていることを知っているのでしょうか。秋山自身だってそうです。いつの間にか、撮影されてしまっているのかもしれません。本人はおろか、撮影した側も、保存している側も知らない、そのひとの存在していた証。牟礼鯨「題名のないケータイ小説まあ。橋本賢一「ちたまの望み」回廊というキーワードを見て、なんとなく色々と思い出したり、思い返したりするかと思いましたが、別にそんなことはなかったです。伊藤鳥子「コーヒーかオレンジジュース」これは面白かったです。亡くなってしまったひとの作品が、ネット上にいつまでも残り続けるという幻想は、別に目新しくとも何ともないですが、これはニコニコ動画をそれに重ねたのと、後は、純粋に青春小説として極上。今回の絶対移動中はテーマが良かったのか、バラエティに富み、いろいろと楽しめました。放課後編集部『放課後 図書館号』装丁が面白かったので手に取りました。てっきり、1部ずつ手作りかと思いきや、手作りを模したオフセであったことが買って持ち帰ってから分かりました。これは素晴らしいです。しかし、悲しいことに、完成度が高いゆえに、自作であるように見えてしまうのが、逆に難点。デザインの道とは果てしないものであることよ。帯を他の本に差し替えてみたり、Kindle体験レポートや、図書館司書インタビューと面白い特集が多かったです。けれど感想は小説だけ。以下寸評。安藝橙一「ある学生寮と彼女の関係」これは面白かったです。学生寮の入り口い置かれたマネキンにまつわる物語なのですが、一夏の青春小説といった体裁をなしていて、学生寮になんか入ったこともないのに、懐かしい気分になりました。のむらなつき「雨」惜しい。面白くなりそうな気配は、あるのだけれどまだ若いのか語句選択の幅が、いかにも狭い。もっと面白くなる気配に満ちているだけに残念。
 以上。
 量が多かったので、一気に流し書いてしまいましたが、機会があれば、もう少し個々の作品について語りたいなと思います。気が向いたら、Ustで。
 ちなみに買った作品のなかで、未着手が2作あります。汀こるもの『水槽読本』すわれば牡丹『Camellia』です。前者はTHANATOSシリーズ未読故、後者はDVD-ROMドライブのついているPCが壊れてしまったので取り込めないため。
 それにしても今回は知り合いの本ばかりを買ってしまい、あまり新規開拓をしませんでした。でも、あんまり買うと荷物が増えてしまい、帰り道が大変なのもさることながら、保管も大変なのですよね。電子書籍化して頂ければ、いくらでも買えるのですが。
 まあ、そんな感じです。