雲上四季

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

2010年上半期に刊行された面白いライトノベルを紹介する

 という名目で、2010年上半期ライトノベルサイト杯に投票します。
 ちなみに該当期間に刊行されたライトノベルの内、読んだ冊数は11冊です。その中から、特に面白かった5冊を秋山絶賛枠で紹介しますが、投票自体は10作分きっちり使います。もったいないお化けが怖いので。では、始めます。

絶賛枠

 真っ先に取り上げたいのは、第11回えんため大賞優秀賞を受賞し、ファミ通文庫からデビューした本田誠空色パンデミックです。いわゆるセカイ系のひとつで、期せずして世界改変の能力を手に入れてしまったヒロインに、男の子が振り回される話です。この、あらすじだけを聞くと『涼宮ハルヒの憂鬱』を思わせるのですが、『空パン』の方が、一枚も二枚も上手であるように思えます。いえ、表現を誤りました。『ハルヒ』と『空パン』は、まったく別物ですね。そう言えば、東野圭吾容疑者Xの献身』に、こんなような科白がありました「真の天才は、たった一箇所に手を加えることで、問題の難易度を劇的に向上させることができる」。『空パン』が実践しているのも、これと同じかもしれません。『ハルヒ』のように複数のネタやトリックを複雑に絡ませて、考えれば考えるほどに面白いことをやっているのではなく、むしろ単純なことを単純なままに淡々とこなして、最後に、ほんの少しだけ──そう、ほんの少しだけツイストさせているのです。1巻が、あまりに面白かったので、2巻も読みましたが、こちらも激烈に面白かったです。3巻も近いうちに読むでしょう。

空色パンデミック1 (ファミ通文庫)

空色パンデミック1 (ファミ通文庫)

 次は宇野朴人『神と奴隷の誕生構文(シンタックス)』です。電撃文庫からデビューした新人の作品ですが、特に、なにかしらの賞を受けたわけではないらしいので、きっと二次選考か最終選考まで進み、編集の目に留まってのデビューでしょう。著者を評価し、デビューさせることにした編集を、秋山は心より賞賛し、お礼を申し上げたいと思います。いわゆる中二的なモチーフと言えばいいのでしょうか? 派閥だとか、吸血鬼だとか、そういうのが大の好物である秋山にとって、本書は帯を見た瞬間に心を鷲掴みにされました。せっかくなので引用します『歴史を改変する者』を打ち滅ぼすため、一人の『若き神』が舞い降りた! なんだかよく分かりませんが、中二のオーラを感じました。これは、きっと青々と酸っぱく、苦く、そして蕩けるように甘いに違いないと思ったら、予想通り、否、予想を凌駕して面白かったです。なにしろ進化し過ぎて、神になってしまった地球人が、侵略されようとしている、中世ファンタジィ程度の文明レベルの人々を救いに舞い降りるのです。ライトファンタジィのお約束のような世界観に、時おりSF分が挿入されるのは、なんだかとっても快感です。ファンタジィだと思っていたら、実は遠未来SFだった! みたいのが好きな方、必読ですよ。
神と奴隷の誕生構文(シンタックス) (電撃文庫)

神と奴隷の誕生構文(シンタックス) (電撃文庫)

 次は『空パン』の同期、第11回えんため大賞特別賞受賞作、庵田定夏ココロコネクト ヒトランダム』です。いえね、いきなり弱気なことを言いますけれど、秋山、この作品、わりかし苦手なんですよ。あらすじを、かんたんに説明すると男2人、女3人から構成される文研部の面々が主な登場人物なのですが、ある日から、いきなりランダムに5人の魂が入れ替わってしまうようになるのです。放課後の限定された時間だけを共有していた仲間たちが、それ以外の時間をも共有し始めると、待っているのは変化ですよ、当たり前ですが。最初のうちは「面白い現象だなあ、あはは」みたいな感じですが、その内に少しずつ、5人それぞれの「言うほどのことではない」というレベルの秘密や内緒にしていたことが、明るみに引きずり出され、ついには彼や彼女らがひた隠しにしていたトラウマまでもが暴露されてしまうのです。そこから先は、ギスギスした暗黒青春ライトノベルへまっしぐらですよ。とは言え、中盤から文章力が劇的にあがり、卒なくまとめているので、それなりに読めますが、それでも秋山は苦手です。苦手ですけれど、抜群に面白いことは間違いありません。どんなに秋山が生理的に苦手でも、素晴らしい小説が素晴らしいことは、声を大にして言わねばなりません。『コココネ』面白いよ!*1
ココロコネクト ヒトランダム (ファミ通文庫)

ココロコネクト ヒトランダム (ファミ通文庫)

 4作目からはシリーズ作で面白かったものを紹介しましょう。まずは十文字青『絶望同盟』です。これはテーマが共通しているだけで、登場人物や物語的な繋がりは、ほとんどない十文字青の第九シリーズのひとつで、『ぷりるん』『ヴァンパイアノイズム』に続く第3作にして、初の短編連作です。今までの作品では、男子高校生が語り手で、彼が壁にぶつかり、その壁を乗り越えようとして乗り越えられず、挫折したりしなかったりしていましたが、本書では複数の語り手がいます。なんらかの理由で絶望している彼らは、絶望している者同士、徒党を組むのですが……マイナスにマイナスを足してもマイナスなんだよ! と言わんばかりに、どこまで行っても絶望は絶望です。でも、最後の最後で足し算が掛け算になったりして。おっと、ここから先は、俺を倒してから行くんだな。第九シリーズは思春期お断りの魔性のシリーズ、大学を卒業して、尚、中二病を患っている諸君か、童貞であった頃を懐かしむ諸兄のためのシリーズだぜ。
絶望同盟 (一迅社文庫)

絶望同盟 (一迅社文庫)

 最後は林亮介迷宮街クロニクル 4 青空のもと 道は別れ』です、ついにシリーズ完結! 『迷宮街』は、はてなダイアリーで公開されていた小説に加筆修正を加えたうえで文庫にしたもので、現代ファンタジィの皮を被った、ウィザードリィのノベライズです。特に、冒険者が迷宮のある街にやってくる1作目の『生還まで何マイル?』は死ぬほど面白くて、ページをめくる度に、いたるところで死亡フラグが乱立し、熟練の冒険者たちであるにも関わらず、我先へと死んでいく様は、壮絶でありながら壮観です。囁き、詠唱、祈り、念じろ! ライトノベルにしては、男キャラが多く、人生に関する描写が多く凄惨です。単純な群像劇としても最高に面白いので、完結を機会に、いろいろなひとに読んで貰いたい限り。
迷宮街クロニクル4 青空のもと 道は別れ (GA文庫)

迷宮街クロニクル4 青空のもと 道は別れ (GA文庫)

その他枠

 秋山が絶賛するまでもない5作を、以下にピックアップします。
うちのメイドは不定形』完成度の高いクトゥルーライトノベルだと思うのです。
境界線上のホライゾン』川上信者ですので、秋山のラノサイ杯枠の1つは、最初から決まっています。
ベン・トー』いま、いちばん好きなシリーズは? と問われたら、これですもの。
『七花、時跳び!』いかん。これは絶賛枠でした。仕方がないので、ここで語ります*2
さくら荘のペットな彼女』2巻から面白くなるらしいので、その期待票として。

投票コード

 以下、ラノサイ杯用、投票コード。
【10上期ラノベ投票/新規/9784047264885】空パン
【10上期ラノベ投票/新規/9784048685511】誕生構文
【10上期ラノベ投票/新規/9784047265370】コココネ
【10上期ラノベ投票/新規/9784758041379】絶望同盟
【10上期ラノベ投票/既存/9784797358643】迷宮街
【10上期ラノベ投票/新規/9784569674605】不定形
【10上期ラノベ投票/既存/9784048686006】境ホラ
【10上期ラノベ投票/既存/9784086305280】ベン・トー
【10上期ラノベ投票/新規/9784048685498】七花
【10上期ラノベ投票/新規/9784048684637】さくら荘

追記

 投票コードが間違っていたので、修正しました。

*1:いや、その略称はいかがなものか。

*2:表紙からもその気配が伝わってくるけれど、実にライトでポップなタイムトラベル。とりあえず過去に戻って、自分自身の頭をはたいてみようぜ! とか、タイムパラドックスが発生しそうな場面において「よし決めたやっぱり返してくる!」(中略)「過去を変えたらどんなふうになるか知りたいからさ」とか、能天気なこと、このうえない。だが、それがいい! だって、未だかつて、こんなにもお気軽で気楽な、タイムトラベル物があっただろうか? なんて思っていたら、第4章の最後のページで、思わず胸が熱くなって、涙ぐんでしまいました。ううむ、時間物はやはり素晴らしい。