雲上四季

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

すべての読み手と書き手のための、作品紹介&レビューコミュニティCRUNCH MAGAZINE INDEPENDENTは、創作文芸界に一石を投じることができるのか

 タイトル長ッ!
──というツッコミはさておき。

CRUNCH MAGAZINE INDEPENDENTについて

 純文学作家でも知られる今村友紀氏が代表取締役を務めるCRUNCHERSが、新サービス「CRUNCH MAGAZINE INDEPENDENT」を始めていました。

CRUNCH MAGAZINE INDEPENDENTは、すべての読み手と書き手のための、作品紹介&レビューコミュニティです。

http://i.crunchers.jp/i/pages/about

 やることは、いたってかんたん。
 自分の書いた小説を投稿したりリンクを張ったりしつつ、他のひとが登録した小説を読んで、いいね! したりレビューを書いたり。
 いわゆる創作文芸系SNSに分類されるサービスです。
 正直、これだけだと他のサービスとの差別化は難しいのですが、面白いなあと感じたのは、このくだり。

他の一般的な作品投稿・紹介サイトとは異なり、CRUNCH MAGAZINE INDEPENDENTは作品の評価に「人気投票」という方式を採用していません。
これはつまり、ひとたび人気を博した作品や人が、そのことによってさらに人気を呼ぶようなメカニズムが組み込まれていないことを意味します。
そのため、上記2つの方法のいずれの手段を取るにせよ、「あなたが得るものは、常にあなたが与えたものに等しい」ということを念頭に置いておく必要があります。

 ほほう、と思いました。
小説家になろう」にアクセスするたびに、代わり映えのないランキングを見せられていて、辟易していたのです。
 ところが、つつつと読んでいくと、

トップページや検索ページで上位に表示されやすいのは、「新着作品」もしくは「評価が高い作品」です。

「評価が高い作品」とは一体……「人気投票」とどう違うのか……??
 混乱です。
 ただ、もう少し読み進めていって、少し納得しました。

有料の中長編作品を販売している書き手の場合、少数の信頼できる読者に作品を読んで貰い、「採点」してもらうことで評価を上げてゆくのが注目を高める最善の方法です。
理に適ったやり方の一つは、たとえば、自分がファンになっている作家にメッセージ等でコンタクトを取り、自作を読んでもらい、反応を受け取ることです。
コンタクトを受けた作家は、既に「リンケージ」機能であなたがファンであることを知っているので、あなたの依頼を受けてくれる可能性がそうでない場合に比べて高いと推測できるからです。
(優れた作家のもとに、作家を志望する読者がやってきて、自作を読んでもらうといった交流は古今を問わず盛んです。)

作品に対するリアクションを返すことは、それ自体があなたの存在を書き手や他の読者に知らしめる有効な方法であり、作品数が少ないうちには特に効果的です。

 腑に落ちた。
 と、まではいきませんが、やりたいこと、目指していることが、ちょっと分かるような気がします。

「リンケージ」機能について

 後、もうひとつ面白いのは「リンケージ」機能です。
 マイミクやフォローフォロワーよりも、一段低い、ゆるい繋がりを感じさせます。
 CRUNCHERSの経営陣紹介のページを見ると、

大規模かつ精度の求められるリレーショナルデータベースの開発と管理スキル。

http://crunchers.jp/?page_id=66

小・大規模データの統計的解析手法の開発と実装。
データの利用に即した実践的解釈と仮説の検証、並びに未来予測。

 と言った知識を持ってる方が揃ってる様子ですので、OracleDBやMySQLなどのRDBの経験から「リンケージ」機能という発想が生まれたのかもしれません。

「人物としての魅力」について

 また、CRUNCHERSでは、プロダクション事業として、新人作家の発掘も手がけているそうですが、一般的な出版社が新人賞というシステムを採用しているのに対し、「人物としての魅力」に重点を置いているのが面白いです。

本来、新人作家をデビューさせる上で最も重要なことは、デビュー作の質ではなく、デビューした作家が長きにわたって活躍してくれるかどうかです。いかに優れたデビュー作であっても、その1作を発表して終わり、ということでは、人手と予算をかけてデビューさせるだけのメリットがありません。
そして残念なことに、多くの新人賞受賞作家は、デビュー後、長期的に活動を続けることができず、小説家という仕事から離れていってしまっている現状があります。新人発掘のためにかけた多大なコストが回収できず、だからこそさらに新人の発掘育成が疎かになる……これが昨今の文学・小説市場で起きていることなのです。
そうした状況を考えるならば、寄せられた1つの作品だけを見て、その作家の将来の活躍を予測するいまのやり方が妥当とは思えません。大事なことは、その人の創作にかける熱意、長期的な努力、そして読者を惹き付ける人物としての個性を見極め、プロデュース側と作家が着実にキャリアを築いていける体制作りなのです。

http://crunchers.jp/?page_id=75

 プロダクション事業とCRUNCH MAGAZINE INDEPENDENTは異なる事業ですので、直接の関係はありませんが、こういう経営陣の思考から察するにCRUNCH MAGAZINE INDEPENDENTにおける
・「人気投票」の不採用
・「リンケージ」機能の提供
 は、人間主体の考え方から生まれたのだろうなあと考えられます。

「ノイエ・エイヴィヒカイト」について

 長くなりましたが、今のところ、1面白いという感じです。
 今後、2面白い、3面白いとなるかどうかは分かりませんが、とりあえず「リンケージ」機能とやらを実感してみたいなと思い、「ノイエ・エイヴィヒカイト」を登録してみました。

無料 短編小説
『ノイエ・エイヴィヒカイト』
[著]秋山真琴
――二週間前にせかいは滅びた。
 終焉、そして再生。圧倒的スケール感で宇宙の過去と未来を語る、新時代SF生誕!(約5000字)

http://i.crunchers.jp/i/data/work/67

 良かったら反応して、秋山に「リンケージ」機能を体感させてください。

おわりに

……あ、エントリタイトルの回収を忘れていました。
 かれこれ15年くらいネットで小説を読んだり、同人で小説を読んでいるわけですが、未だに面白い小説との出会い方について悩んでいます。どうすれば、効率的に傑作と出会うことができるのか……?
 今のところの答えは相性です。先日「YouTubeが5つ星級の発見:評価システムは無意味だった」という記事を読みましたが、結局、芸術において共有できるものは「良い/悪い」「好き/嫌い」だと思うのです。ならば、その「良い」と「好き」だけで統計して、自分と趣味や傾向の合うひとの「良い」や「好き」をサジェスト機能で提案することが、最も効率的でしょう。
「リンケージ」機能は、ちょっとだけ秋山の理想に近いかなー……? というところです。