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第17回「文学フリマ」の近辺で出会った本について語るときに自分の語ること

 ようやく積んでいた同人誌を読み終えたので、その感想でも。と言っても、基本的には、すべてTwitterで呟いたもので、それを再編したものです。後、文学フリマと謳い上げていながら、全然、関係ところで入手した本や、前々から積んでいたものも含まれています。まあ、近辺ということで、ひとつ。
 後、Twitterからの転載なので、常体と敬体が、ごっちゃになっていますが、ご容赦ください。
楠樹暖@織豊出版『LIFE with You』いきなり文フリ本じゃなくて恐縮ですが、これは傑作です。最後まで読み終えたら『LIFE with You REWRITE』を5ページに被せることで、以降の展開を書き換えることが出来るという意欲的な実験小説。この仕掛けが、とにかく上手く効いているのです。正直、元々のは、単なるカップルのラブ話だ「はあ」と思ったのだけれど、最後まで読んで「ふむ、なるほどねえ」と。では、本に本を被せてみるか……と、ここで2分ほど試行錯誤して「ああ、ここに、これを噛ませればいいのか」と被せられた瞬間に、薄かった2冊の本が、分厚い1冊の本に変化して、もうこの時点で軽く感動です。書き換えられた5ページ以降は、ページ毎に驚きがあって、ほんとうに感激。まさか、あの結末から、こんな世界を導き出すなんて。結末を書き換えるという行為を、読者に実行させるのと、物語が完全にリンクしていて、傑作の一言。
楠樹暖@織豊出版『暖かい樹の奇談豆本折本の限界に挑戦したような豆本で、蛇腹を駆使して製本するのに、まずは一苦労。1ページ1編で、シンプルにまとまっていて、けっこうな充実感。一部『LIFE with You』と重複する編もあったけれど、まあ、のんびり楽しめました。
添島譲@空想少年はテキストデータの夢を見るか『こいのうた』フォントサイズが大きい。楠樹さんの豆本を先に読んでしまったので、相対的に内容を薄く感じてしまうのは、単に読んだ順番が悪かったでしょう。いちばん好きなのは「法則」これは良い。後、左綴じなのに縦書きなのが、ちょっと気になった、かな。
宵町めめ「四ページ目の真代子」(絶対移動中『マヨイトあけて』所収)本質的なところが3ページ目と4ページ目、目次と奥付にあるので、逆説的に1ページ目と2ページ目に蛇足感。と言うか、めめさんの小説か! と気合を入れてページをめくったのに、梯子を外された感。ポニテ子は、かわいい。
加楽幽明「まにまに」(絶対移動中『マヨイトあけて』所収)読了。幽明くんらしい、難解な漢字の多用による雰囲気作りは出来ているけれど、雰囲気だけで終わってしまっているような感じ。異界感もないし、これが、こんなに冒頭にあっていいのか……。
涌井学「外に出ようとする男と女」(絶対移動中『マヨイトあけて』所収)これは良いですね。理由は不明だけれど、部屋から出られない男の悲壮感や焦燥感が、良い具合に出ています。最後の展開は「ええっ!?」と思ったけれど、愛があるような気がしないでもない。
高橋百三「台所の人」(絶対移動中『マヨイトあけて』所収)丁寧度が高い小説。ベーコンは厚く、ハムは薄く。こういうディテールにリアリティが宿るように思います。百三さんの気遣いと言うか、目線の高さが窺える、とても良心的な小説ですね。
伊藤なむあひ「鏡子ちゃんに、美しい世界」(絶対移動中『マヨイトあけて』所収)なむあひさん、凄いなあ。「白雪姫前夜」とは、似ても似つかない、真っ向勝負の小説。でありながら、読者の予想を裏切り、期待に応えている。こういう方向だとは思っていなかったから、素直に驚きました。まず、本の中にしか現れない鏡子ちゃんという存在が目を引く。鏡子ちゃんに会いたいが故に本を読む、主人公の心理も、とてもよく理解できる。そうして、読者と主人公をリンクさせておいてからの終盤の展開は圧巻で快哉
伊藤鳥子「メイコの世界」(絶対移動中『マヨイトあけて』所収)これは、先日、鳥子さんが名古屋にいらっしゃる直前に読んでいたので既読。鳥子さんらしい、現代を舞台にしながら、幻想を交える作風。主人公がちょっと病んでいるところもらしい。鳥子さんの作品の中では、けっこう好きな部類。主人公の行き当たりばったりな性格と、バーでメイコと出会うシーンがよく出来ていて、酩酊した主人公が千鳥足になるあたりなんかは現実性が高かった。後、永野あたりの設定は、最近の、鳥子さんの関心が反映されているのだろうな、と。そういうのも悪くない。
三糸ひかり「趣味の翻訳 第三回」(絶対移動中『マヨイトあけて』所収)相変わらず面白いけれど、第三回が随一の出来では? 窓ではあるけれど、テーマのマヨイトにも沿っているし、翻訳の後の文章も、示唆に富んでいて、非常に文学的。文学というのは、ことごとく面倒くさいものであるというのが持論で、三糸さんは、面倒くささを体現したような方なのだけれど、この作品には、特に、その面倒くささが現れていて、つまりは傑作だった。平然と帰ってくる第四回が待ち遠しい。
業平心「SIX」(絶対移動中『マヨイトあけて』所収)あんまり、よく分からなかったけれど、COOLなSFだと思いました。一番、好きなフレーズは「crazy adventure under the sky」かな。
蜜蜂いづる「ヴァニシング・ポイント 実験小説」(絶対移動中『マヨイトあけて』所収)驚異的なまでに面白くなくて、逆に驚きました。少しハードルを上げ過ぎな気がします。
有村行人「哲学さんと飛ぶ」(絶対移動中『マヨイトあけて』所収)これは、とても良い。とても心地よい小説。振り返ってみると、従来の鳥子さんっぽい小説だなと感じ、あまり有村さんらしくないなとも感じ、有村さんなりに、絶対移動中的な小説を心がけたのかしらと妄想。鳥子さんらしいと感じたのは、現実フェイズと幻想フェイズが、きれいに切り離されているところ。哲学さんとの生活が、主人公の生活に良い影響を与えるという図式が、それっぽい。この救済感を、秋山は、とても好ましく感じます。
よしくによし「蛾と骨 序」(絶対移動中『マヨイトあけて』所収)面白いし好物だけど短すぎる。
くりまる「暗黒舞踏会」(絶対移動中『マヨイトあけて』所収)躍動感あり。今までの作品だと、いちばん好きかな。
神尾アルミ「夢の中ならあいつは泣いた」(ソウブンドウ『カクリヨで逢いましょう』所収)んもう、困るなあ。最初は、よくある過去の罪を糾弾するタイプのものか、だとか『密閉教室』や『冷たい校舎の時は止まる』あたりを連想しながら読み進めていきました。ちょっと情景が分かりにくくて、この内容を、短編に詰め込むのは至難なのでは? と思いながら読み進めていたら、33ページと言うか、34ページの衝撃ですよ。まさか、まさか、ここで終わらせるとは(ぶるぶるぶる
若本衣織「Shell-tar」(ソウブンドウ『カクリヨで逢いましょう』所収)。面白いは面白いし、好みは好みだけれど、テーマとの一致性が低いような。「君は今以上に向上する必要はない。この場所で、ただ呼吸をしているだけでいい。」とか言ってみたい。
空木春宵「The Indiscipline Engine」(ソウブンドウ『カクリヨで逢いましょう』所収)タイトルにEngineという言葉が入っている時点で、否が応でも期待が高まらざるをえないわけで、つまりは、素晴らしく最高に現代的で、気持ちの良いSFでした。源氏物語という小説の中に描かれた世界観に潜り込み、六条御息所にまつわる解釈を否定し、存在を許されなくなった生霊の消去から物語は始まる。もう、この時点で、だいぶ、いい感じです。ハーモナイザ・リコグナイザーと、どことなく伊藤計劃『ハーモニー』を連想させるネーミングに、登場人物の口を借りて語られる「忌むべき現代の焚書」、「華氏四五一度はすぐそこに」から導き出されるディストピア世界。とにかく細部が良く練りこまれていて完成度が高い。ただ、Engineの機能については誤解があったかな。てっきり、この作品これ自体もEngineの干渉を受けて、挿入/改竄されているものと思いながら読みました。肝心の結末は、うーん、どうなのかしら。こういう、どことなくスットボケた感じはSFによく見受けられて、このノリには、あんまりついて行けないのだった。いちばん好きなシーンは61ページの最後。明智小五郎かっけぇ。
武田若千「箱庭の外 Nの肖像」(ソウブンドウ『カクリヨで逢いましょう』所収)若千さんの豆本でも、超短編でもない作品を読むのは初めてかも。Nのパートは、高村暦さんの「invisible faces」と似ている箇所が、いくつかあって、この奇妙なシンクロニシティに思いを馳せたりした。
七木香枝「鏡の庭でおやすみ」(ソウブンドウ『カクリヨで逢いましょう』所収)幻想的でありながら、書かれていることは、けっこう怖いような。半身とのセックスは、なんか絵になりそう。
エンドケイプ「酢昆布」(『幻視社 第七号』所収)描写は面白いし、続きが気になる展開だけど、これからというところで終わっていてしょんぼり。何故、酢昆布なのかは不明。
渡邊利道「倒れるものすべて」(『幻視社 第七号』所収)どういう経緯を経た未来なのだろうか、というようなことを考えながら読みました。そうなってしまった日本における、説得力のあるリアリティ。エビを食べるシーンが好き。
佐伯僚「ネコノカミソリ」(『幻視社 第七号』所収)味蕾、という明確なキーワードが出てきて「あ、小説も、テーマに沿っているんだ!」と遅まきながら、気が付いた。そして、これは中々に面白かったかな。けっこう自分の方向性や趣味嗜好との一致度が高い。読者の関心の引き方と言うか、物語の運び方が上手で「それで、それで、どうなるの?」と、気軽にページを繰っていった結果、30ページの上の段で、見事にしてやられた感。コンパクトにまとまった、素敵な幻想ホラー。
『幻視社 第七号』特集の〈未来の文学〉レビューは、どれも面白そうで困りました。既読なのは『デス博士の島その他の物語』と『ベータ2のバラッド』。読みたい! と強く感じたのは『ケルベロス〜』『エンベディング』『ヴィーナス・プラスX』『ゴーレム100』『第四の館』あたり。小特集の、二階堂奥歯は『八本脚の蝶』を再読したくなった。佐伯さんの文章も良かったけれど、対談は、もっと良かった。返す返す、7年前、どこかの飲み屋の片隅で、松本楽志さんに「秋山くん、好みだと思うから、なくなる前に買っておきな」と言われたことに感謝します。〈未来の文学〉レビューについて、一言、物申すなら「こういうのが好きなひとならこれ」とか、対談とかの形式でも何でもいいので「レビュアーそれぞれのベスト」を出してくれたら良かったなあ、と。現状だと、どれも面白くて困ります(贅沢な悩みであること)。
向井豊昭「Saito-Hidekatu」(『幻視社 第七号』所収)泣きそうになりながら読みました。
氷砂糖『p-kingdom』丁寧な言葉遣いが心地よい。『ゆる本』に寄稿いただいたという思い出補正もあってか「オーダーメイド・ハピネス」は、後味が悪いけれど好きな作品。後は「せっかちな恋がしたい」も好み。
氷砂糖「ある休日の過ごし方」(雲上回廊『ゆる本 Vol.18』所収)いいんじゃないでしょうか。カフェって、刹那的な面白味がありますよね。テンションが上がるけれど、テーブルが狭くてテンションが下がったり、あるあるです。
蒼桐大紀「眩窓純喫茶一九一三」(雲上回廊『ゆる本 Vol.18』所収)タイトルから『サフィズムの舷窓』を連想しましたが、ぜんぜん違いました。メタな仕掛けを取り入れているのだけれど、古風な描写と相まって、いい具合に雰囲気が演出されていますね。
蒼ノ下雷太郎「VINUSHKA」(雲上回廊『ゆる本 Vol.18』所収)雷たんお得意の、そして、いつもの少女イチャイチャ異能バトルでした。思ったのは、今回は西尾維新分が少なかったかな、くらい。
添田健一「碁石の怪」(雲上回廊『ゆる本 Vol.18』所収)相変わらず抜群にセンスが良い。この、暇を持て余しているひとの感じが、とても良く出ていて、とても優雅。
泉由良「摂氏さんのこと」(雲上回廊『ゆる本 Vol.18』所収)森博嗣がサイトに掲載している小説を、もう少し小説にして、もう少しライトにした感じ。わりと言葉のひとつひとつが選択されていて、作品としての完成度が高すぎて、もう少しゆるくても良いに一票。
高村暦「カプチイノ」(雲上回廊『ゆる本 Vol.18』所収)カフェでこんなひとがいたら、ちょっとお近づきになれ、ない。
『率 通巻4号』縁あって3巻を購入したので、せっかくだしと4巻も購入。どれも若々しく、既存の枠組みをぶち破ろうという気概が見えて、たいへん好ましい。
栗山真太朗@少年憧憬社『ウォヴォカの道化師』けっこう好みでした。表紙から、もう少し幻想的な内容を予想していたのだけれど、そうでもなかった。もしかしたら、今までの栗山さんの作品の中では、いちばん好きかもしれません。
青波零也@シアワセモノマニア『コンバラリアの行方』同人における創作文芸について在り方について、改めて見つめ直さざるをえないなと思いつつ、しかし、これこそが理想であり、ひとつの完成形であるな、とも。とにかく世界観が好物以外の何物でもありません。女神に認められていないが故に、存在しなかったことにされた旧時代や、その時代の文明や技巧に惚れ込んだ鋼鉄狂(作中では生まれてくる時代を間違えた天才と呼ばれる)や、楽園という名前のディストピアや。全部好物です。そんな、わりとどうしようもない世界で、でも面白おかしかったり、必死だったり、真剣に生きている人物たちが、とにかく素晴らしい。ちょっと展開が皮肉っぽかったりして、斜に構えている感じも全然、悪くない。ただ、断片的に過ぎる、とは思いました。掘り下げは、ほとんど見受けられず、背景に予感される壮大な世界観をハッタリの道具として使っているだけで、個々の物語の完成度はけして高くないし、これからというところで終わっているので極めて不完全燃焼。しかし、そのことを、自分は、けっして悪いことだとは思いません。世界観をハッタリに用いるのは自分だって好きだし、なにより読んでいて面白いし、興奮します。でも、前述通り、完成度や断片的に過ぎることを考えると、積極的にお勧めすることはできないなあ、とも。ここで、最初の同人における創作文芸の在り方に話が戻るわけですが。秋山にとって同人というフィールドは「これが俺の考えた最強なんだが、どう思う?」を実現している節が強いです。シンパシィが得られれば嬉しいけれど、そうでないときはスルーされる。この作品は、まさに、その極致で、秋山が偶然、世界観に惚れ込んだので極めて面白かったし、素晴らしいと感じたけれど、小説としてフラットに見ると、まだまだ手を入れる余地があるように感じます。ありていに言うと、編集不在の小説。なにやら途中で拡散してしまったきらいもありますが、個人的には大好きで、次に機会があれば、零也さんの既刊を全部、買っていいなと感じました。好みの質が合いすぎて困ります。最後に、本書が楽園シリーズの外伝的位置づけであり、それが故に断片的であるという事情については、大いに斟酌する余地があるでしょう。それについて言及するならば、本筋への導線(たとえば既刊紹介)があれば、自然に解決されたように思います。
谷町悠之介@ナキムシケンシ『るい×とれ RuinXTreasures』乙女チックアドベンチャーという体。楽しい小説。途中で組版が変わったのには驚いた。
ひではる@文芸サークルPEN-吟『言葉の断片集 言惑小景』ショートショート集(おわり)が奇妙な味を生み出している。宵街UNIONのミヤハラリキさんの表紙も、雰囲気を助長していて、すっとぼけた文体と相性がいいですね。
ひではる@文芸サークルPEN-吟『言葉の断片集 落日落花』少し、物語としての輪郭がはっきりしたかな。好みなのは「揺り椅子」いいね。
ひではる@文芸サークルPEN-吟『言葉の断片集4 反転水路』読んでいる最中に、思わず奥付を確認してしまった。まさか、わずか1年で、ここまで上達するとは……。ナンセンスでお気楽な雰囲気を残しつつも、文章力が格段に向上し、物語の強度も上がっている。素晴らしい。
柴田友美『チョコレートタンタン』ふしぎな小説であることよ。どこか懐かしい感じがするのは、多分、文章が肌に合うということなのかな。
遮断機内部@びしょ部『C.COON. 夜魔の娘達』『竜箱の揺籠』が面白かったので、同作者の旧作品を読んでみたのだけれど、端的に言って面白くなかったです。10代が考えそうな、テンプレで、やや退屈。ただ、カーシーだけは何故かキャラが深堀りされてるので、カーシーメインなら面白いかも。
遮断機内部@びしょ部『C.COON. 2 欲動の下僕』いわゆる後の方の巻から面白くなってくるライトノベルみたいな感じ。文章力が向上しているので1巻より読ませるけれど、土台がテンプレ過ぎて、既視感が拭い切れない。後、物語の構造がシンプルで面白味に欠ける。もったいない。
遮断機内部@びしょ部『C.O.COON. 外伝 月の森と兎の祠』これはタイトルが悪い。外伝と銘打ってあるけれど、ほぼ平行世界みたいなもので、共通点は名前くらいでは? 本編と比較すると、キャラも立っているし、物語も明確だし、明らかに質が上がっている。
鳥三日『常磐線どういう経緯で、この本が作られることになったのかが気になるな。鳥久保咲人「EVERGREEN」は、正直、鳥久保さんらしからぬ展開だなと思った(あるいは、今までこういう物語を読んだことがなかったから違和感を覚えただけかも)。疑問が解けたのは霜月みつか「シンセティック」を読み始めてから。登場人物の重複があって、ああ、連作なのかと納得して、だから、鳥久保さんらしからぬと感じたのかな? と半ば自分を言い聞かせるように読み続けました。牟礼鯨「大貧民」は出だしが下劣で、低俗だなあと感じましたが、分裂に関するくだりは、なかなか示唆に富んでいて、3編の中では、いちばん踏み込んでいる印象。翻って、登場人物の名前を、適当なものに変換すると、まったく下劣は払拭され、ああ、いかんいかんと思いました。あやうく、自分が忌避を心がけている「文章を読んで、小説が読めていない」状況に陥るところであった。しかし、総論としては微妙。テーマや経緯も不明だし、合同誌にした理由が謎……。
青砥十@眠る犬小屋『後輩書記とセンパイ会計、不動の雷獣に挑む』再読からの『後輩書記とセンパイ会計、不退の架橋に挑む』面白かったのは「不動の雷獣」「縁切の樹木」「楼閣の老婆」「異郷の槍術」「不退の架橋」あたりかな。個数的には第3弾の方が多いけれど、好きなのは第4弾。まずは冒頭「異郷の槍術」に始まる、世界さんによるテンプレキャンセルからの入るが素晴らしい。「長老失格」や「墨絵の雨情」は分量も長く、けっこう、しっかりと書き込まれている。ベストは、何と言っても表題作もである『不退の架橋に挑む』まさかの語りが数井くんではなく、ふみちゃん! というのが目を引くだけでなく、この地の文が、ちゃんとふみちゃんのイメージ通りで、しかも、ふみちゃんはふみちゃんで数井くんを想っていて素敵。キャラに特化したシリーズ物だと、しばしば語り手がヒロインに変わったり、脇役に変わったりして、変化を与えたりすることがあります。「不退の架橋」でやっているのも、ある意味、これと同じなので手法としては、わりあい使い古されている感はある。でも、この作品の場合、ふみちゃんのキャラがしっかりしているので、読んでいて全然、違和感を覚えないのです。むしろ、深まる。これは、すごいことだと思います。言ってみれば、キャラの強度が高い。柔らかいとブレてしまい、一気にシリーズとして魅力も減る、でも、硬いとブレない。個人的には、あまり、ふみちゃんに魅力を感じない(どちらかと言うと、数井くんがかわいい)ので、このシリーズは、あまり進展もないし、第3弾まで読んだ時点では「正直、うーん」という感じでした。しかし、前述の通り第4弾は、新しい試みもあって素晴らしい。後、このシリーズは、巻末の自作解題が面白い。
青波零也@シアワセモノマニア『アステエルの御伽話』シリーズ第2弾の方を、先に読んでしまったけれど、あちらの方が文章力も展開もこなれていたかな。本書を先に読んでいたら、第2弾を読んでいたかはさだかでないけれど、あちらを先に読んでいたので、本書は「原石」ということにしておきましょう。ところで表紙のキャラは、いったい何者だったのかと、まじまじと見返している内に、右手に気がついて「……あっ!」。イメージと、だいぶ違っていた(イメージでは、もっと暗黒可愛い美女)。
青波零也@シアワセモノマニア『反転楽園紀行 #01 ニートは世界救済の夢を見るか』終わってない続き物を読むのは、ひとつの苦痛ではあるけれど、言い出してもしようがないので、読んでから考えることにしました。結論としては、読んで良かった、に含まれるでしょうか。小説家になろうに散見される、いわゆる異世界物のひとつ。さらに俺TUEEE。だけれど、主題になっているのは、送り込まれたファンタジー世界に込められた謎や、魔女による変革という大きな流れであり、「俺は何故、強いのか?」も含めて謎であり面白い。文章も地に足がついており安定感あり、世界観の設定も登場人物の口を借りて説明されるので違和感は少なめ。また『コンバラリアの行方』の「灰かぶり」や「不思議の国のアリス」とも繋がりがあり「ああ、あの鋼鉄狂は、この鋼鉄狂なのかな」という面白味もあり。返す返す、続いていないことが悔やまれるけれど、この手の一人称小説は、テンションを維持できないと書くのが辛いのは分かるし、年を経るごとに、少しずつ感覚が離れてしまうので、停滞はやむなし。という捉え方もできます。
青波零也、砂紅果香@シアワセモノマニア『千刺万紅』読了。と言うか、再読。前回と同様に、大きな流れは、さっぱり分からないので、表層をなぞるように楽しんだ次第。青波さんの本は、概ね不親切ですと言い切ってしまおう。いちばん好きなのは「土曜日の郵送」手紙を届けるというモチーフに加え、最後の展開が怒涛で好み。描写的には「水曜日の迷夢」もいいですね、遊郭いいですね、遊郭いいですね。後は「日曜日の午睡」も。天才いいですね、天才いいですね。
青波零也@シアワセモノマニア『迷走探偵秋谷静 鏡花水月の君』似非ミステリ・ファンタジィと銘打たれているけれど、まあ、現代伝奇的な、怪奇現象が存在する世界観における探偵物。著者曰く表紙詐欺だけれど、探偵の秋谷が迷走どころか、そもそも出歩いてなく、むしろタイトル詐欺だと思う。空に鯨がいるということは『反転楽園紀行』と世界観が繋がっているのかなあとか、アラン・スミシーと言えば渡り鳥とか、『空の境界』の影響なのかなあとか、アリスというモチーフの通奏低音とか、まあ、全体的にウェルメイドな感じ。
青波零也@シアワセモノマニア『ハイケイメタファイロマンサー』初めて青波さんを認識したとき、この文庫を新刊として出していたように思う。この猫に見覚えがあります。いわゆる、いろんなところに書いた短編を一冊にまとめた系で、どれも、そこそこに面白い。特に気に入ったのは「スピラーレ」勇者と魔王物で、魔王を倒した後の勇者を描いたもの。数値化って、つまりHPとかが見えるってことかな。こわい。「黒鍵のエチュード」と「素晴らしきメタな日」も面白かったですね。こういうノンシリーズの短編も良いですね。多分、基礎となる文章力があるからだろうなあ。
青波零也@シアワセモノマニア『君は虹を知らない』〈終末の国から〉シリーズのひとつで、ヒース・ガーランドを軸とした連作短編。相変わらず雰囲気を、ぼんやり楽しむだけの読み方なので、いずれ再読が求められるな、と。特に良かったのは「廃品街の散歩者」、次いで「イリス」。表題作の「君は虹を知らない」はシスルも登場し、ボーナストラック的な面白味がある。……しかし、このシリーズは、もう少し演出を効かせれば、格段に面白くなるような気がするので惜しい。編集が求められるな(同じことを何度も言ってる気がする……)。
青波零也@シアワセモノマニア『ゆめうつつ演義表紙が良い、装幀が良い、演義と言うと封神演義を思い出す。「ゆめうつつ事変」が、いちばん分量があって、本書のメインと思われるけれど、個人的には、あんまり……。短編連作でなく、独立した短編集としては『ハイケイメタファイロマンサー』の方が、圧倒的に面白かったかな。ああ、でも「ものくろ対話篇」は良かった。
青波零也@シアワセモノマニア『アメガタリこれは、好みストライク。歪神というアイデアを見たとき「これ、バトルしないで、人間との感性の違いや、想いの交錯を描いた方が面白いよなあ」と思ったのだけれど、まさに、それをしっとり仕掛けてくれた感じ。たいへん好ましい。マヨイガを思わせる僻地で、男と女が、ゆるゆる会話するだけで、グッと来る。零也さんの作品は、大半が、主要登場人物2人が、一風変わった世界において、あることないこと語りながら、なんか事件が起こったような気がして、なんとなく終わるという展開を踏んでいるのだけれど、この作品は、その系統にありながら、ことさら起伏が少ない。なんか、もう、二人して雨が降り注ぐ庭を見ているだけなんて感じで、その静けさが、また作品の雰囲気に合っていてとても良いのです。後は、まあ、こういう薄ぼんやりとした空気感を放つ、和の世界観が好き過ぎて死にます。続きがとても読みたいです。
追音翠『きみとわたしのモノガタリな、なんと……100%純愛だった。これ以上はないくらいに、完璧に。いつか、急転直下のドギツイ落ちが待ち受けているのでは? と一瞬でも身構えてしまった自分の心の汚さを悔いたい。
楠樹暖@織豊出版『桃太郎と消えたサル』タイトルと出だしからは、想像できなかった予想外かつハートウォーミングな一作。その場の情景が分かってから、読み直すと序盤の科白のひとつひとつが重い……。
星井七億@ナナオクプリーズ『よいこの有害図書『笑いたい奴こっち来い!』に次いで、星井さんの本は2冊目。以前は、んんん文庫、だったけれど、いつの間に変わったのだろう。前回よりも読みやすかったかな、相変わらず、ちょっとキッチュで風刺の効いた短編多数。
青波零也@シアワセモノマニア『音律歴程』零也さんの作品だと、終末よりも楽園の方が好きなので、どうかなあと思いながら読み始めたけれど、終始、面白い面白い言いながら読み続けた気がします。シスルは単体ではアレだけど、相棒がいると輝き出す。と言うか、隼が輝かせますね。この話も、零也さんの得意とする短編連作の形をしていて、断片化された物語を繋ぎあわせて、壮大な世界観を想像するのを楽しむのですが『千刺万紅』『君は虹を知らない』既読のため、だいぶ慣れてきた感じがします。鍵盤を模した目次も素敵です。しっかし、最後の「靴」には度肝を抜かれました。まったく想像していなかっただけに、驚きである。しかし、嬉しいサプライズでもある。そっか、そうだったのかー、みたいな。
峯岸可弥『djmv01』あっちへふらふら、こっちへふらふらしながら読んだ。超短編が、いっぱい詰まっているので読むのに、えらい時間が掛かってしまうのです。まあ、この手の本は、いっぺんに読むより、ベッドサイドに置いておいて、ちまちま読むのが好き。猫の夢が見られるしね。なんと言っても「発想の幾何学」がグレイト。往復書簡で超短編を交換し、タカスギシンタロさんのアドバイスを受け、作品がドンドン成長していくのが素晴らしいし、見ていて面白い。こういうのは、とても面白い試み。最後、500文字の心臓で評価を受けたのもGood。作品的には、ヒモロギヒロシ「猫の伊勢参り」がいちばん好きかな。峯岸可弥「あたたかさのあたたかさ」は終始、薄ら寒くて、これは酷い話だぞと思っていたら、案の定、酷かった。雪雪「叙景集(抄)」はさすがの完成度。
アイヌ・ケンネル「フンコロガシ」(『LOL 第17号』所収)面白い。この、なんか、言い訳がましい感じ。後、無闇矢鱈な青春感。嫌いじゃない。
屋代秀樹「ラクエンノミチ」(『LOL 第17号』所収)キてる。ヘルスの待合室を舞台にした戯曲なのだけれど、実にドラマがある。途中まで、けっこう淡々と進むのだけれど、中盤くらいから暗い雲が覆い始めて、暗澹たる気分になる。
佐藤@佐藤『上』題はなく、表紙には上巻であることを示す「上」という文字しかない。主人公も佐藤だし、ずいぶんな見切り発車なのではないかと思ったが、読み始めたら、いつも通りの佐藤さんで、まあ、いいかと思った。佐藤さんは、少し前にネットゲームか何かを、小説風に描写する遊びをTwitterでやっていて、不可解な島での生活は、あのときの一連のpostを思い返させた。つまりは、佐藤さんなりの異世界物だ。ただ、華やかさはなく、全体的に陰鬱で灰色。おっ。と、思ったのは53ページと54ページ。おそらく、この仕掛けのために、ここまでのページや装幀があったのだろうと思いつつ、ネタバレを受けずに読むことができた自分の幸運と巡り合わせに感謝である。下巻も楽しみ。
河村塔王@ICU『これはお話ではない』子どもの頃に読んだ、自分の名前を代入しながら読む遊びのような小説を思い出した。16からの展開が好き。
温泉卵と黙黙大根『温泉卵と黙黙大根 超短編集 vol.4』高橋百三さんの作品は、どことなく中華怪談風で、いずれも好み。武田若千さんのは「中折れ帽子」が好き。
鳴原あきら@恋人と時限爆弾『属性』この展開は予想外……! 完全に3つ目だと思って読んでいた……。
青波零也@シアワセモノマニア『音律歴程 The Five Black Keys』無料配布の方です。5分の3は既読でしたが、5分の2は初めて。「レコード」は、けっこう根の深い作品なので、こんなところに収録されていていいのかと問いたい。
NOIF project『ささやきの白』『さざめきの黒』(N) 飲み会の (O) おかずを (I) 一品 (F) 増やすことを目的に五十嵐彪太、白縫いさや、立花腑楽、圓眞美が超短編を書いてるらしい。どういうこっちゃ……。それぞれのベストは圓眞美「浴槽」、立花腑楽「上陸」、白縫いさや「月を抱いて眠る」、五十嵐彪太「暗がりで」。いさやんの「柊の原」も好き。
恣意セシル@35度『この命をくれてやる。』これは、ちょっとすごい小説だった。殺人衝動という狂気を、日常の中に落としこんで、真正面から描こうとしている。なかなかに凄い挑戦。最初はてっきり生まれてきた赤子を殺させるのかと思ったけれど、この結末は、逆に、救いがあるのかもしれない。
犬尾春陽『マズロウマンション』雰囲気がとても良い。文章が丁寧で好感が持てる。ゆったりとした物語運びには安定感があって、安心して読める。中盤は失速して、少々眠くなる。終盤は再加速するけれど、大団円ではなく、ひっそりと幕を下ろすような。そんなところ。
近江舞子『秘密』近江舞子さんの、この長さの作品を読んだのは初めてかな。心中をテーマとして扱った作品で、前半から中盤までは近江舞子さんらしい設定と展開と登場人物の人格で、全体的にもどかしい。終盤は、けっこう手に汗握る展開で、ラストの一行は、ちょっと予想外で驚いた。
栗山真太朗@少年憧憬社『水野街クロニクル』傑作、であろう。栗山さんの本を最初に読んだのは、非公式ガイドがきっかけで『川町奇譚』からだけれど、それから毎回、挑戦を続け、大きく軌道を変えて、一度たりとも立ち止まることを知らない著者の姿勢が、たいへん好ましい。神奈川県汐入市水野街という架空の街を舞台に繰り広げられる連作短編は、1518年から2120年まで、非常に幅広い。登場人物や物語に関係性はない。敢えて言うと2038年に始まる戦争がひとつのターニングポイントになり、その前後が面白いくらい。一言で表現すると、アイデアの宝箱、かな。「黒い怪物、あるいは戦場の遠距離恋愛」は導入として中々に優れていて、落ち着いたトーンの謎めくエンターテイメント小説という様相を呈している。終盤の急転直下感が素晴らしいが、後に戦争のことを知って、理解が深まる。一編だけ抜き出しても高い完成度を誇っているのが「テロルと朝食」。静謐な朝食の風景と、テロに対する真摯な視線というのが交互に語られるのだけれど、この奇妙な対比が、そのまま物語の軸にもなっていて、非常に素晴らしい。個人的に好みなのは「あの娘にラブレター」。これは、とても気持ちよく意表を突かれた。こんな展開を経て、あんな結末に至るなんて序盤では、まったく想像できなかったし、今も「もったいないなあ」という気持ちが強い。長編にできるアイデアが惜しみなく使われている。
山本清風×栗山真太朗@少年憧結社猫『ニーバー、アイヘイトユウ。』面白かった。読んでいる最中に、そう言えばお二人とも音楽をやるんだっけかと思いだした。ギグと言うのだろうか? 即興で、お互いにソロで音楽して、それで一連の音楽を作り上げるような。どういう手法で書いたのかは不明だけれど、読んでいる最中は「栗山さんが、そろりとスタートする」「清風さんが、もっと勢い良く行こうぜと速度を上げる」「これくらいのスピードを出していいのかと栗山さんが乗る」「あ、じゃあ、私、こっちに行きますんでと清風さんが曲がる」「あっ、ずるい! そっちがそのつもりなら、こっちも曲がりますよ! 文学的決別です! と栗山さんも曲がる」「いや、二人して両極端に向かっちゃ駄目でしょう。読者が不安になったところで、清風さんが歩み寄る」「えっ、じゃあ……と栗山さんも歩み寄る」と言う、まあ、ふたりのイチャイチャを見ているような感じでした。小説としては、秋山と西島の会話が飛び抜けて素晴らしくて傑作であった。あのテンポ感で話が進むのは圧巻で、よくこれだけ回り道しながら進められるなあと感心。特に神道仏教が交錯するところは白眉。瞬間最大風速的に舞城王太郎に並んだ感じ。これだけを延々と読んでいたいなあと思ったりした。読み終えて思ったけれど、なんか文学フリマ的モチーフが多くて、こういうライブ感もギグっぽい。おまけで貰った対談における、Dropboxのくだりが面白かった。なるほど、相手が作業しているのが分かれば、確かに「俺もやらなきゃ」って気分になるなあ、と。機会があれば、この手法、試してみたい。
山本清風@文学結社猫『私はあなたに触れたいという欲求が私はあなたに触れられないという禁則から逆説的に生まれていることを知ったとき、私はあなたに生かされていると感じる。』素直に絶賛できないのは、どうしてでしょうかねえ。面白いのだけれど、面白くない……。いわゆる男性作家が書いた力強い女子の語りで、こういうのは大好物である。女の子もかわいいし、人気が出そうだなと感じた。特に「後悔」からの展開が素晴らしく、「公開」では、さらに跳ねている。読了後、冒頭の1ページを読み返すとグッと来る。素直に「激烈に面白かった」と言えないのは、秋山の清風さんに対する期待値の高さと、なんとなく漂う既視感にあるのだろうなあ、と。そう……既視感、である。文体は目新しいけれど、話の本筋に目を向ければ、どこかにあった感に溢れているのだ。たとえば主人公が阿修羅っぽいガールだったり、使う武器が卒塔婆ではなく機関銃だったり。それはそうと、73ページの卒塔婆のシーンは盛り上がる。これで勝つる感に溢れていると言うか、アニメなら反撃のBGMが流れ始めるような感じ。あの瞬間に感じた「卒塔婆すげぇ」は、いったい何だったのだろうか……あの卒塔婆なら、抱かれてもいい(いや、よくない)この小説を、もっと良くするにはどうしたら良いのかを考えているけれど、なかなか頭の中で実像が結ばれてこない。シンプルな案は、長さかなあ。書き手が発信したいことを、読み手に受容してもらうために、その受容器の生成Phaseが充分でないなあという印象あり。ただ、それによってスピードが失われてしまうことも難がある。悩ましいところである。文体は、しかし間違いなく新しかった。展開も短期的には予測させるけれど「次はどうなる? 次は?」という牽引力に満ち溢れている。すべてが面白いのだけれど、結局、読んでいる最中に面白いだけで、振り返ってみれば、結局、よくある話である気がするのが残念なのだろう。適当な作品が思い浮かばないけれど、あんな感じの主人公が、あんな感じの悩みを以って、あんな経緯を経て、ああなって、ああなってしまうのは、青年向け漫画雑誌に、よくありそうな感じなのだ。漫画では、エッチシーンがあって抜けるんだけど「お前、これで抜くの?」みたいな。読んでいる瞬間だけ面白い作品を、秋山は否定しない。例えば西尾維新悲鳴伝』シリーズは、読んでいる最中は色々と考えるが、本を閉じた瞬間にすべてを忘れてしまうような現在進行形の小説だけれど、あれは間違いなく西尾維新を代表する作品のひとつだと思う(変な言い回しだこと)関係ない話を挟んでしまったけれど、清風さんの『イカサレ』も同様で、やっていることの新しさや深さという点では『先読』の方が上だと思うのだけれど、読んでいる最中の面白さは『イカサレ』の方が何倍もある。とは言え、読み終えてからも、なんとなく思い返してしまうのは、やっぱり内容が衝撃的であったわけで、それは、表層的なところだけでなく、内側にも、ちゃんと面白いところがあるという証左でもあるのだろう。あるいは「このキャラで抜いてしまった」みたいな引け目、みたいな? 例を思いついた。山本直樹道満晴明玉置勉強、あたりかな。こじらせからのエロからのひどい落ち。……ひどいと言ったけれど、この3人は大好きな漫画家なので、結局、清風さんのことが大好きだということであろう(おしまい
伊藤佑弥@元カノを誤訳『それら、きっと、永遠』文フリ界のゆやタンこと伊藤佑弥さんの最新作、挑戦なのか迷走なのか、失速なのか方向転換なのか判断に悩む。いちばん面白かったのは「ある光、白」かな。
兎月竜之介「迷惑魔女アゼリカ・アゼリカ」(明日から休講です。『人見知りダンスパーティ』所収)魔女かわいい、良い青春短編。
すみやき「やっぱり僕はモテモテにはなれない。」(明日から休講です。『人見知りダンスパーティ』所収)タイトルからは想像できないほど、地味に良い話だった。
須江岳史「僕の死なない物語」(明日から休講です。『人見知りダンスパーティ』所収)なるほど、確かに文学している。出だしは、いきなりの長文で面食らったけれど、非常に面白いことに挑戦していて、なかなかに興味深い。文体が文体なので、あんまり長いと困るけれど、この世界観は好き。
兎月竜之介ニーナとうさぎと魔法の戦車番外編 無銭飲食伝説」「白百合をきみに」(明日から休講です。『憧れのクッキーハンター』所収)本編は、応援の意を込めて買ったけれど、買ったところで満足してしまい積読。兎月さんの小説は、未だに同人しか読んでいないのであった。
すみやき「母さんが好きでたまらない、ただそれだけの話。」(明日から休講です。『憧れのクッキーハンター』所収)もう少し母さんの魅力が描かれていても良かった気がする。
須江岳史「物語と風」(明日から休講です。『憧れのクッキーハンター』所収)文学性の高さについて思うことしきり。物語建築者という言葉が好き過ぎる。
安房理弘「ハートレス・バースデイ」(明日から休講です。『憧れのクッキーハンター』所収)最初は荒削りだなあと思ったけれど、読み終えてみれば、本書収録作の中では、いちばん好きかもしれない。なんとなく『ガンスリンガー・ガール』ではあるけれど。
春木のん『The usual love』日本語と英語の差異が気になるけれど、このギャップも含めて面白い。この、愛で以って、すべてを肯定しようという感じは好きだ。
リュカ『翠玉館豆本〜聖夜幻想譚〜“Will you be Santa Claus?”』ええ話や。最初から良い話になりそうという予感があって、いろいろあって良い話になってくれると、とても嬉しい。
楠樹暖『世界の滅亡と色彩を持たないディストピアなんか、もう色々とひどくて笑った。この短い文字数の中で、持ち上げて落とすを、こうも連続させられるのは、ひどい才能だ(脱力……(褒めてます
恣意セシル×泉由良『ゆらし、 vol.1』読みにくい……。いちばん、テンションが上がったフレーズは「ねえ 昏ませて、私を」。作品としては「残り夏」が好きかな。
松本楽志 タカスギシンタロ@コトリの宮殿編集部『超短編マッチ箱版 空想くらげ図鑑』楽志さんので、いちばん好きなのは「句らげ」、タカスギシンタロさんので、いちばん好きなのは「海の図書館」。
添島譲@空想少年はテキストデータの夢を見るか?『君が思うよりもずっと』いいじゃないですか〜。なんか、譲さんの優しさが詰まってるような一冊でした。サークル名が来てるなと思って、2回ほどブースの前で足を止めたけれど、あのときに買っておけば良かったと少々後悔である。
伊藤なむあひ「サンタン=ゲルゲの孤独小説群』(食人舎『文学とはROCKである。 Vol.3』所収)74ページからの展開がリリカルで好み。
青波零也@シアワセモノマニア『レベンタートの妖精使い−海の章−』零也さんお得意の連作短編、今回の舞台は楽園。安定して面白い、安定して好み過ぎる。
青波零也@シアワセモノマニア『めりくりあくとっ!』いわゆる群像劇。珍しい。章の頭がイラストだったりすることもあって、伊坂幸太郎を連想。それにしても、魔法使いのwwwポーズがwwwww(ツボった
青波零也@シアワセモノマニア『サイファイボーイズエトセトラ』いちばんは、なんと言っても「市民の幸福」ですよ、ええ、幸せは義務ですからね、この物語も、当然、いちばん面白いに決まっています。そうでしょう、市民。
青波零也@シアワセモノマニア『うたかたの断章』んー、ガーランドの誰かの話かな? と、読んでいる最中に気づいたので、秋山も、だいぶシアワセモノマニアレベルが上がってきたようである。
青波零也@シアワセモノマニア『アイレクスの走馬灯』同梱されていたゲームの体験版は未プレイ(最近、めっきりデジタルゲームに対する拒否反応ががが)。この本における最大の驚きは、あのキャラのビジュアル化。『音律歴程』既読組にとっては、ワーキャー的なる嬉しい悲鳴である。
牟礼鯨・高村暦@西瓜鯨油社.rg『ヌクゥ-Nuquu-』これは面白い競作。シンプルにまとまっており、完成度も高い。踏み込みの深さで言えば、暦さんの方かな。と言うか、この手の、フェティシズムや女性観を扱ったテーマだと、鯨さんは、だいぶ挑戦した後なので辛そう。でも、余地がなくなってからが勝負でもあるしなあ。
吉永動機×野条友史@「 」MAGAZINE『「 」MAGAZINE no.03』7冊のコピー誌の詰まった箱入りの小説群。BLANK MAGAZINEさんは、文学フリマで無料配布のno.0を受け取ったのが出会いだったけれど、以来、ずっとデザイン的に攻め続けている。いちばんは「まほうがことば」かな。イラスト的には「ゆらめき」。組版的には「言葉と海」(次点は「廃島譚)。
牟礼鯨@西瓜鯨油社『受取拒絶』鯨さん、レベルを下げてきたなあという印象。幻想要素を、ばっさり省いているので、どこまでも地続きで、とても読みやすいし、メッセージが明瞭で分かりやすい。変な表現をすると、変態要素の強い村上春樹。人物の描き方も凝ってるし、これは、かなりの良作。

追記

 おもむろに文学フリマで頒布した、雲上回廊新作へリンクを張っておこう。

世界再生の書物と一つの楽園 (回廊文庫)

世界再生の書物と一つの楽園 (回廊文庫)

世界再生の書物と一つの楽園

世界再生の書物と一つの楽園

幻視コレクション 失われた一葉の架空 (回廊文庫)

幻視コレクション 失われた一葉の架空 (回廊文庫)

幻視コレクション 失われた一葉の架空

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