雲上四季

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

3ヶ月で傑作を10作も読めると嬉しくなりますね

 こんにちは、秋山真琴です。
 先日、さとるさんに「これ、面白いから読んでみなよ」と某作家の某作品を差し出されたのですが「いや、最近は海外翻訳か、死んでいる日本人作家の小説しか読みたくないんだよね」と断ったら鼻で笑われました。
 そういう笑い方を、秋山は、でるた笑と呼んでいます。


 さて、3ヶ月に1回に恒例行事として、1月から3月に読んだ本の中で、特に面白かった10冊を紹介したいと思います。例のごとく、この期間に読んだという条件でピックアップしているので、古い作品が含まれていることもあります。

ミハル・アイヴァス『もうひとつの街』

もうひとつの街

もうひとつの街

 1949年生まれのチェコの作家、ミハル・アイヴァスによるもうひとつのプラハを幻視した作品。
 年間ベスト級の傑作でした。
 これは、非常に心地の良い作品でしたね。最初に興味を抱いたのは、帯文に円城塔の推薦文を見たときです。その後、訳者解説を立ち読みしたところ、ミハル・アイヴァスが、ボルヘスカルヴィーノといった系譜に列なる作家で、プラハを舞台とするチェコ文学や、シュルレアリスム的イメージを得手とするというのを読んで、俄然、興味が惹かれました。
 チェコの風景は、あまり分かりませんが、読みやすさは非常にありました。
 何の変哲もないチェコの街並みから、一瞬にして人気のない図書館──異教徒が集まる寺院──息苦しいほど酸素の濃いジャングルにスライドする様子が、また、巧みなんですよね。多分、チェコという空間の背後に埋もれていった、多様な文化を織り込んでいると思われて、それは、あんまりよく分からないのですが、雰囲気は十二分に伝わってきます。
 チェコ
 行ってみたいですね。

クリストファー・プリースト『夢幻諸島から』

 これも年間ベスト級でした。
 元々、プリーストという作家は気になっていて『奇術師』と『双生児』は、いつか読まねばリストに入っています。名作と名高い作品を、ちゃんと抑えるように読んでいった方が良いとは思っているのですが、でも、せっかくなら新刊を読みたいですよね。
 と言うわけで、読みました。
『夢幻諸島から』。
 いやはや、面白かったですね。
 夢幻諸島という、謎めいた世界を紹介するガイドブックという体裁でありながら、世界観の紹介が連続するのかなと思いきや、唐突に短編小説が始まったりするのが面白いですね。複数の情報を照らし合わせることで、真相らしきものが浮かび上がってきたり、また、真実だと思っていたものが、実は、そうではないのかもと揺らいでいく読書体験が超絶快感です。
 人によっては要領を得ない、なんだか曖昧な作品のように捉えるかもしれませんが、バラバラに解体されたパズルのピースを、頭の中で再構築させ、一本の線にするのが好きなひとは燃えますね。そして、一本の線になりそうでならないことに、良い意味で悶えられるひとは、もっと燃えると思います。
『双生児』も読んでみたい。

ジョンバンヴィル『いにしえの光』

いにしえの光 (新潮クレスト・ブックス)

いにしえの光 (新潮クレスト・ブックス)

 久々に読みました、新潮クレスト・ブックス。
 ジョン・バンヴィルは、ずっと昔に『バーチウッド』を新刊で読んだ記憶があります。ただ、ひたすらに文章が上手いなと感じたのですが、今回の『いにしえの光』も、文章の精度が極めて高く、想起される情景が豊潤であると感じました。
 だいたい冒頭のパンチラからして凄いものですよ。どうして文章だけで、あそこまで綺羅びやかで、センチメンタルで、夢と希望に溢れた高潔なパンチラを描くことが出来るのでしょうか。立ち読みでいいんで、あのシーンだけでも読んだ方が良いですよ。
 その後も、年上女性の肉の感じや、子どもの汚い感じや、不倫にまつわる不道徳さと後ろめたさがゾクゾクします。
 タイトルが、また秀逸ですね。
 表紙も好きです。
 眩しすぎる光に照らしだされると、物事の良いところだけが浮き彫りになって、影となるものが、光が消えた瞬間、かえって目に焼きつくことについて。この光と、暗黒。凄惨です。

コーマック・マッカーシ『チャイルド・オブ・ゴッド』

チャイルド・オブ・ゴッド

チャイルド・オブ・ゴッド

 ノワールですね。
 そして、ディスコミュニケーションでもあると気が付きました。
 町田康に近しいと、たった今、思い至りました。
 特に死姦のシーンが強く印象に残っています。あの、誰もいない、暗い、神様すらも見ていないような無人の世界、良心に引きずられるように帰路を辿りながら、しかし、何度も……何度も、振り返ってしまう、あの狂気……!
 全身に瞬間で鳥肌が立つほどリアリティに溢れる狂気でしたよ、あれは。
 倫理や道徳といったものが、いかに社会を支えていて、社会から隔絶され、倫理や道徳を持たない人間が、どういう末路を辿ることになるのか。そのインパクトは絶大でしたね。変な話『ジョジョの奇妙な冒険』において描かれるような邪悪さを感じました。
 だが、しかし、その邪悪の権化すらも神の子のひとりであるという……!
 この考え方、日本人には、あまり馴染みがないかもしれませんが、想像するだけで、背筋が凍ります。

山田風太郎魔界転生

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 KADOKAWA作品がKindleで安かったので買いました、読みました。
 これはワクワクする作品でした。
 上巻の前半部分をたっぷり使って、悪の陣営を描いているのが良いです。最強の名に相応しい剣豪や剣聖たちが、片っ端から魔界に堕ちていって、強くなって転生してくる様子が悲劇的です。こんなに強くて、しかも常識が解き放たれた、はなはだ迷惑に狂って転生してきて、どうなるのかと思いきや、我らが柳生十兵衛三厳ですよ。
 十兵衛が登場するだけで「なんとかなる!」という気がするのは、どうしてなんでしょうね。
 上巻前半における「あ、日本、終わったな……」という絶望感と、下巻における柳生但馬守宗矩対柳生十兵衛三厳というまさかの対決が好きです。

桜庭一樹GOSICK RED』

 これもKindleで安かったので買いました。
 桜庭一樹は、秋山が本読みとして駆け出しの頃に(まあ、今も駆け出しのままですけれど)、『推定少女』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』『少女には向かない職業』『ブルースカイ』と、立て続けに出して行った作家で、駆け上っていく様子をリアルタイムで見ていたこともあり、思い出深い作家です。
GOSICK』も、ずっと追っていたシリーズで、ヴィクトリカが呆れた感じで「久城、君……」とパイプをふかすのが好きです。
 ところが、このシリーズは、けっこう桜庭一樹の読書遍歴が如実に反映された作品で、初期と後期とで、作風がガラリと変わっています。だいたい6巻まではライトノベルの文体に沿っているのですが、7巻からは児童文学の文体なんですよね。さらに最終巻の8巻では、幻想小説の趣きまで漂い始め、かなり、すごいことになっています。
 新作の『GOSICK RED』も、もちろん後期の文体を継いでいて、もはや久城一弥とか、外国人作家の書いた東洋人みたくなっていて、翻訳感が半端ないです。
 筋や展開も、ミステリ系児童文学の様相を呈しているなあ、と。
 好みは分かれますが、秋山は、好きです。

恒川光太郎『南の子供が夜いくところ』

 好きな存命の日本人作家を10人挙げよと言われたら、絶対に入れるのが恒川光太郎
 デビュー作『夜市』と一緒に収録された「風の古道」で心臓を打ち抜かれました。『秋の牢獄』所収「神家没落」も大好きな作品で、『草祭』の「天化の宿」も傑作です。
 あまりに好き過ぎて、ちょっと影響を受けすぎてしまうので、なるべく読まないようにするという、ふしぎな作用が働くほど好きです。
 本書はKindleで安かったから買ったのですが、南国の雰囲気が前面に押し出された連作短編で、従来作品とは、ちょっと雰囲気が異なりました。もちろん底にあるリズムは一緒なのですが、もっと湿度が高く、花の香りが強烈で、全体的に明るかったですね。
 多くの作品が、良い所で幕切れしてしまっているのは残念なところで、そういった意味で、がっつり踏み込んでくれた「夜の果樹園」が、いちばん好みです。

大森望責任編集『NOVA 10』

 はあ、終わってしまいました、書き下ろし日本SFコレクション。
 とても残念です。
 本書でいちばん読み応えがあったのは、実は、編集後記。大森望のSFに対する愛が溢れかえっていました。こういうのは読むだけで楽しくなりますし、はやく第2期が始まらないかなあと思います。
 作品で気に入っていたのは伴名練「かみ☆ふぁみ!」がいちばんかな。後は倉田タカシ「トーキョーを食べて育った」と柴崎友香メルボルンの想い出」がとても良く、円城塔「(Atlas)3」は、久々の理解できたような気のする円城塔でした。

梓崎優『リバーサイド・チルドレン』

 普遍的なテーマを扱った小説の方が、ジャンル小説より優れている。きっと、無意識のうちにそういう考え方があるのだろうと思います。極めて偏屈で、頑迷だとも思いますが、自覚はしていても中々、改善できないのが難しいところで、また、もどかしいとも感じます。
 小説を、文章を用いた芸術作品として捉えたときに、普遍的なテーマを核としてくれたらエンターテイメントもしくは文学として読むことが出来ますが、ジャンル小説特有のトリックを核にされると、ジャンル小説の観点でしか語れなくなってしまいます。本読みとして、もう少し研鑽が求められますね……。

エリック・キース『ムーンズエンド荘の殺人』

ムーンズエンド荘の殺人 (創元推理文庫)

ムーンズエンド荘の殺人 (創元推理文庫)

 最後はネタ枠として。
 これは笑いますよ。
 海外作品ランキングに新本格ランキングがあったら、きっと一位に煌くことでしょう。
 エントリー数は1作かもしれませんが。
 出だしが最高です。探偵学校の卒業生たちが、雪山の山荘に集うという、まさに新本格的展開! この設定を聞いたとき、てっきり九十九十九とか、龍宮城之介とか、氷姫宮幽弥とか、天城漂馬とかが一堂に会するのかと思いきや……思いきや……。
 まあ、読んでみてください。面白いですよ。

終わりに

 と言うわけで、3ヶ月に一度の振り返りでした。
 次の四半期も面白い小説に出会えますように。