雲上四季

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

時間停止した世界で女性を裸にする男が拗らせすぎている

 AVの話じゃないですよ。
 ショーン・エリス監督による2006年公開の映画『フローズン・タイム』を観たので、その感想です。

あらゆる時間モノが好き

 このブログでも何度も書いていますが、ループ物やタイムスリップ物など、ありとあらゆる時間を扱った作品が好きです。
 映画『フローズン・タイム』もタイトルを目にした瞬間に「もしや!?」と思い、あらすじを読んだ瞬間には、もう観ることを決めました。
 そのあらすじは、下記の通りです。

失恋のショックで不眠症になったアーティストのベン。眠れないため、深夜のスーパーマーケットでのアルバイトをはじめる。不眠症がエスカレートして、ついには自分以外の時間が止まってしまう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/フローズン・タイム

予想以上に文学的だった

 いわゆるエンターテイメントの枠組みには収まらない作品、というのが率直な感想です。
 冒頭から美女が、歯をむきだしにして怒りを露わにして、マグカップやらランプやらを投げつけてくるんですけれど、全部、無音なんですよね。かえってインパクトがあります。
 その後は、しばらくは主人公による独白、内省が続きます。
 曰く、初めての彼女と些細なきっかけで別れてしまったこと。彼女を忘れられないこと。彼女が他の男とつきあい始めたことにショックを受けること。
 クヨクヨしているうちは、まだ良かったのですが、しまいには自分の中で解決できずに、夜中に電話をして、新しい男と寝たのか、そのセックスは良かったのか聞く始末。
 このめんどくささ、別れて正解じゃないですかね、と思ったりしました。


 そんなことをずるずるやっている内に、ひどい不眠症にさいなまれることになります。
 ふつう、不眠症と言うと、眠りに落ちにくいとか、明け方になって寝てしまい寝坊してしまうとか、夜は眠れないけれど日中に寝てしまうとか、そんな感じだと思うのですが、彼の場合は、ほんとうに誇張なく一切まったく寝てないみたいです。
 ちょっとファンタジーですね。


 で、持て余した時間を、どうにかすべく深夜のスーパーでバイトを始めるわけですが、そこで待っているのは、深夜のスーパーでしか働けないような困った同僚ばかりなわけで、ストレスは加速する一方。
 不眠も2週間を越え、なにもかもが限界を迎え、ついに一線を越えた瞬間……、


 時間が凍りつくわけです。


 今まで、様々な時間モノに触れてきましたが、このパターンは初めてです。
 たとえば祖父から譲り受けた懐中時計が出てくるわけでもなければ、目眩を覚えた瞬間に新たな能力に目覚めたとかでもなく、なんの脈絡もなく、唐突に時間が停止するわけです。


「何故、時間は止まったのか?」


 という観ている人間の驚きや疑問に対して答えが提示されることはなく、主人公は時間の停止した世界に対して、ものすごい順応性を見せて、おもむろにスーパーにいる女性客の服を脱がせるとスケッチを描きはじめるのです。
 まあ、男ですからね。
 ちょっとエロいことやるのは分かります。
 でも、絵を描くだけって!
 しかも、絵を描き終えると、朴訥な手つきで服を丁寧に戻していくのですよ。
 そこにイヤらしさはなく、なんて言うのでしょうか、スケッチするために取り出した裸婦像を、こわさないように倉庫に戻すような動きなんですよね。眠ってなさすぎて変になってしまったのでしょうか。それとも、元々、こういう性格なのか。


 結局、この止まった世界は何なのだろうか?
 主人公の妄想なのか? それとも、初カノと別れて2週間も寝ないでいると自然と発現する能力なのか? いったい、どうしたら元の世界に戻れるのか?
 いろいろ考えていると、いきなり、


「指を鳴らすと、時間は再び流れ始めるんだ」


 と呟いたかと思うと、手の関節をボキボキっと鳴らして、直後、なにごともなかったかのように時間が再び動き始めるわけです。


 え、待って待って!


 と、なります。
 なんで指を鳴らすと元に戻るの? そんな説明あった? え、今のがそうなの? 主人公は、なんでその法則を知ってるの?


 という疑問は、相変わらず無視して、物語は進んでいきます。

新たな恋と努力が時間を動かす

 そうこうしている内に、主人公は新たな恋を見つけ、時間の止まった世界で描き続けていたスケッチが、画廊のオーナーに認められたりします。
 時間を止めて好き勝手をした代償に、とんでもないものを支払うことになる。なんて展開もなく、なにもかもが上手くいく、いたってあたりさわりのないハッピーエンドで終わりました。


 秋山は、ハッピーエンド至上主義です。


 なので、良かったです。
 途中、時の止まった世界に闖入者が現れたときは「すわ、ホラーか!」と焦りましたが(あれは、結局なんだったのだろうか……)、最終的にすべて丸く収まって良かったです。
 物語的には、悪いことがあっても、がんばっていれば良いこともあるよ、みたいな感じでしょうか。


 ぼくのりりっくぼうよみさんを思い出しました。
 氏の存在を知ったのは、泣けるリアル脱出ゲーム『君は明日と消えていった』の主題歌において、です。
 その後、尾原和啓『モチベーション革命』を読んだときに知ったのですが、氏は学生時代に引きこもっていて、そのときに詩を書きつづったり、ニコニコに動画を投稿して、その才能が見いだされたらしいですね。
 よく知らないままてきとうに書きますけれど、ぼくのりりっくぼうよみさんも止まった時間のなかを生きて、そのなかで才能を育てられたのかもしれません。
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終わりに

 ちょっと釣りっぽいタイトルにしてしまって恐縮ですが、冒頭に書いた通り、予想外に文学的で、いろいろと考えてしまいました。
 しかし……時の止まった世界は良いものですね。少し前に堀尾省太『刻刻』を読みましたが、あれは傑作でした。
 最近になって知ったんですが、今年に入ってアニメが放送されているのですね。
 あれ? しかも、エンディング曲は、ぼくのりりっくぼうよみさん? わーお、繋がってきますね~
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 オススメの時間モノがあったら、是非、教えてくださいね。
 読んだり観たりします。