雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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BI-BICYCLE

 苦行だ。
 苦行などしたこともないが、高橋はそう思った。そして同時に、今が冬で、気温がそれほど高くないことに深く感謝した。
 とにかく想定外が多すぎた。今までに人がやった話や、テレビで映像を見たことがあったが、まさかこれほどまでに辛く苦しいものだとは思っていなかった。傍から見るかぎり、動作自体はそれほど特異ではないのだ。重いものを背負って山を登っているのと代わりない、体重が少し増えた程度だと思えばいい。――それが楽観的思考であったことを、高橋は今、実感している。
 重い、と言うのもあるが、それよりも問題なのは重心の位置だ。とにかく人がふたりいるせいで、重心の位置が変わってしまい、前傾姿勢になるだけでは加速できない。いや、加速している余裕などない。ぐっと手を握り締めて、バランスを取るだけで精一杯。足は転んでしまわないために、本能的に動いてしまっていると言っても過言ではないだろう。
「大丈夫、高橋君?」
 後ろに座っている高橋の彼女が、涼しい声を掛けてくれる。しかし高橋には、答えを返すだけの余裕などなかった。


「ガールフレンドを自転車の後ろに乗せて走りたい」なんて言わなければよかった。
 高橋はひどく後悔していた。


『二人乗り』516文字