雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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DRAGON QUEST

 勇者は老齢であった。
 無人の地下道を抜け、荒れ果てた古城を越え、急峻な山道を行き、勇者はようやく竜王の元にたどり着いた。
 山頂でいびきをかいていた竜王は、勇者の来訪に気付くと、目蓋を重そうに持ちあげ、勇者と話ができるように、勇者の声がよく聞こえるように頭を下げ、耳をもたげてやった。それでもまだ竜王と勇者の距離は遠く、勇者は竜王の身体にのり、胴から腕を伝い、肩の上に立った。
 数十分ほど、勇者は竜王の耳元で、覚えておいてもらいたいことを話し、そして帰っていった。勇者は長い時間をかけ故郷の国に帰り、そこで安らかな余生を過ごそうとしたが、直後に攻めこんできた敵国の名もない兵士に首を刎ねられ、死んでしまった。勇者の故郷は、敵国の手によって徹底的に蹂躙され、それまで受け継がれてきた血筋も歴史もすべて失われてしまった。
 数百年が経ち、もはや誰も、その滅びた国を覚えていない。
 ただ最果ての山で眠っている竜王だけが、その国を覚えている。竜王が忘れてしまわない限り、その失われて久しい国は、世界から消えずに残っている。ずっとずっと、いつまでも。竜王が死ぬか、世界がなくなってしまう、そのときまで。


『記憶の果て』500文字