雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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CLOCK END

「困ったものだ……」
 男は腹から血を流し、道の真ん中に倒れ、事切れていた老人を、脇の土手の上に放ると、そこで「南無阿弥陀仏」と唱えてから十字を切った。次いで、懐から出したペンで老人の腕に戒名を書いてやった。道で腹から血を流して死んでいたから「道腹知」、適当である。
「これで少しでも報われるか、それとも余計な世話だったか……」
 男は頭を掻いてから、思い出したように「アーメン」と呟き、男の死体に背を向けた。


 何でも世界は滅びるらしい。真偽のほどはさだかでないが、お偉いさん連中は、どこかしらに用意されていたであろうシェルタに引っ込んでしまったらしく、庶民への説明や解説の類は一切なかった。悪い冗談か夢でないと言い切れないこともないが、確かに現実に世界が滅びるとしたとき、持てるものが持たざるものに対し、世界が滅びる理由を逐一説明してくれるとは限らない。地震などの天災に際しては、パニックを恐れ、敢えて情報を公開しないということもあるらしいが、今回の場合、情報を公開されなかったものたちは、生き残らないわけで――
 突然、男は後ろから頭を強打され、そのまま意識を失った。即死には至らなかったが、脳の中に血が溜まり、緩やかに死にはじめた。
 それはちょうど死刑を宣告されたのに、刑がいつ下されるか判らない囚人のように。
 滅亡を言い渡されたのに、いつまでたっても滅ぶ気配のない世界のように。


終末の過ごし方598文字