放課後の教室。夕陽が差しこみ、机に反射した光が黒板に幾何学的な紋様が躍っている。
体操服を着て、教壇の上に寝転がっている男子と、制服姿の女子が話をしている。女子は机に向かっていて、マークシートに鉛筆を走らせている。手許には大学コード表が開かれ、彼女は目当ての大学を左手で指し示しながら、右手で数字を黒く塗りつぶしている。
「順位付けって無意味よね」
「志望大学のこと?」
「そう。そうだけど、それだけじゃない」
彼女は小難しい話が好きだった。ただ彼女は、本当に難しいことを考えているわけではなくて、ただ会話したいだけ……なのだけれど、上手く話すことができなくて、仕方なくいつでもそれを誤魔化せるように敢えて難しく言っているだけなんだ――と、彼は理解していた。だから彼女のことが好きな彼は、なるべく付き合うようにしていた。
「例えば、どんな?」
「全部よ。順位なんかつけなくていいじゃないの、決める必要なんてない、決めつけて自分を縛りつける必要なんてない……どう?」
「いいと思うよ」
よ、と掛け声を掛けながら彼は立ち上がった。そしてチョークの粉を払いながら、彼女に近づいていく。顔を上げた彼女のさらりと垂れた髪に、夕陽が輝く。
「俺は君の中で、何位になってるの」
顔を横に向け、唇を尖らせて、彼女は答えた。
「選外――」