歌姫アリア。
その歌声には耳を傾けるものの心を癒し、傷つき倒れんとするものに手を差しのべ、万人に涙と感動とを誘う、不思議な魅力があった。
ときの王はアリアの、この力に目をつけ、戦場で兵を鼓舞する歌を歌わせた。一騎の兵を千に当たる軍神に仕立てあげる、勇猛果敢なる歌。その歌が聞こえたとき、兵士たちの勇気は奮いたたせられ、彼らは猛然と進軍した。
留まるところを知らぬと見えたこの王も、軍拡にばかり心を囚われた結果、うちに崩壊の種を招き、脆くなったところを他国に突かれて倒れた。
新たな覇者となった国の王は、亡国の歌姫――アリアを王室音楽家として招聘し、やはり戦場において兵を鼓舞する歌を歌わせた。その国もまた、かつての国と同じく栄華を極め、天下をせしめたが、やがては朽ちた老木のように倒れた。
その後も幾度となく現れた国家が、アリアを招き、軍歌を歌わせたが、彼らの栄光は永く続かなかった。
王権政治の時代に幕がおり、民衆政治の夜明けが来るまで、アリアは戦場に立って兵のために歌った。
歌姫アリア。
その歌声には国の寿命をちぢめ、滅亡へと導き、戦のない平和な時代を呼びよせる、不思議な魔力があった。
