雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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READ OR DREAM

 私はずっと小さな頃から、本が好きだった。小説やエッセイといった読み物に限らず、活字全般が好きで、辞書や教科書を眺めているだけでも楽しかった。けれど私の家は、あまり裕福ではなく、本を買う余裕もなければ、電車に乗って大きな図書館に行くこともできなかった。学校の図書館は、子供向けの作品ばかりで、人一倍読むのが早かった私は、すぐに読みきってしまい、飽きてしまった。
 あるとき浜辺に座って海を見ていたら、水平線の向こうから大きな船がやってきた。船は砂浜に半ば乗り上げるようにして止まった。見上げれば、女の人が立っていて「海上移動図書館《ピースメーカ》の館長です、乗ってみますか?」と大声で言い、私に向けて縄梯子を放りなげた。


 船の中は私にとって天国だった。世界中の書物という書物が、その船には揃っていた。館長さん曰く「僭越ながら申しあげますと、当館に所蔵されていない書物を、私は見たことがありません」とのことだ。
 館長さんと書架の間を歩いていると、向こうから私と同じぐらいの男の子が、水兵服を着たおじさんの司書に案内されて歩いていた。
「僕、もうおうちに帰らなきゃ」
「出口はこちらです」
「でも、その前に、一冊だけでいいから本を借りていきたいの」
「残念ながら……未成年の方の場合、保護者の同伴が必要です」
「そう……」
 俯いた少年の肩に手を回し、司書は「次がありますよ」と言った。
 去ってゆく少年の背中があまりに寂しくて、私は思わず「待って」と声をかけた。
「私が君の代わりに借りてあげる。さあ、言って。どの本が借りたいの」
 振り返った少年は目を輝かせて、私の手を取った。その後ろでは水兵服の司書がやれやれと肩を竦めて苦笑している。
「館長、又貸しはよくありませんよ」


『素敵な図書館』741文字