雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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COLOSSEUM

 人に見られながら戦うのは、それほど嫌いじゃない……、円形の闘技場の中にあって戦う自分を客観的に観察、そして分析することで、勝利を演出しやすくなる。そう、俺は剣奴――グラディエイター。
 俺の得物はシュタットレイス。俺はこの、剣奴に似合わない、両手持ちの騎士剣を相棒に、ちっぽけでくだらない栄光を手に入れつづけている。シュタットレイスの柄は通常の剣より三倍ほど長く作られてある。そのため握る位置を変えることによって、大振りな一撃必殺の斬撃を与えることもできれば、懐の中に入って小回りを効かせることもできれば、何度も手の位置を変えることによって、振りかぶるという動作を挟まずに攻撃しつづけることができる。
 この闘技場にあって俺は無敵だった。相手が逃げるだけの奴隷であれ、牙を剥いてくる獣であれ、俺と同じ剣奴であれ、俺は敗北を知らず、常勝の名の元にあった。しかし……さすがに、この……事態は。こんな。……敵、は。考えてもみなかった。


 毒の入っていたスープを取り落とし、俺は脇の相棒、シュタットレイスを手に取った。
 まさかこの、不敗伝説を誇っていた俺が、最強ゆえに観客に飽きられるとは。不覚。


――気がつけば俺は闘技場に立っていた。いつもと同じ、王者の場所。シュタットレイスは、抱きかかえるようにして持っていた。敵は、目の前に立っている。しかし、構えることができない。客観的に自分を見ることができない。そうか、毒を飲まされたんだったな。
 ニヤニヤ笑いの挑戦者が俺の間合いに入るその瞬間、俺のコンディションは最悪だった。視界は揺れていて安定しないし、筋肉は上手く動かせない。しかし。
 自動的にシュタットレイスが跳ね上がり、挑戦者の首を刎ねた。
 俺は最強。この闘技場にあって、常勝不敗を誇る剣神――グラディエイター。
 白く濁った視界の隅に新たな挑戦者が見えた。見えた瞬間、俺の足は勝手に動き、シュタットレイスは挑戦者の心臓を貫いていた。
 死が訪れるその瞬間まで、何人足りとも俺と相棒を切り離すことはできない。そして相棒と共にある限り、俺は戦士。――さあ、行こうか。我に惑い無し。


『コロッセウム』896文字