遠くでカラスが啼いていた。
黄昏色に染まったあぜ道を歩きながら、そっと背後の気配をうかがう。
人影は、ない。
「なあ、知ってるか。日が落ちるまでに家に帰らないと。怪人☆ミカンが出るんだぜ!」
直前まで共にいた、ともだちの言葉が思いかえされる。
それはこの頃、クラスで流行っている他愛もない噂話。しかし、ともだちのともだちのお兄さんは、怪人☆ミカンの投げた蜜柑が後頭部に当たったために今も集中治療室に入っていると言う。
怪人☆ミカンの投げる蜜柑――それは相当なパワー、そしてスピードで迫り来るとささやかれている。
もし当たったとすれば、ただでは済まされない。
フッと背後から冷たい風が吹きぬけた。
暑かった日中とは対象的な冷気に、肩がすくみ、手が震えた。心なしか、目の前を先導している自分の影も、脅えているように見える。
ああ、自分も早く帰らなくては、怪人☆ミカンに襲われてしまう。
もしかしたら、背後に立っていて、狙われているのかもしれない。恐い、ああ、恐い。
恐怖に耐えきれず、肩越しに振り返ってしまった。そこには、
――蜜柑色の夕陽がかがやいていた。