雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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UNDER THE CELESTIAL AIR

――日々の平穏を怨んでいたからだろうか、こんな身に覚えのない竹箆返しを喰らったのは。私はただ、皆を驚かせようと思って、ちょっとした悪戯を仕組んだだけなのに……それが、どうして、こんな、こんなことになるなんて。
 彼女は魔女狩りにあっていた。
 炎の中にあって熱さを感じなければ魔女。魔女であれば虚言を弄し、熱い熱いと踊る。然らば殺せ。水の中にあって息を吸わねば魔女。魔女であれば戯言を喚き、息ができないと泳ぐ。然らば殺せ。人々の中にあって魔女と疑われし者は魔女。魔女であれば空言を騙り、人のように振る舞う。然らば殺せ。
 手に農具や調理道具を持った村人たちから逃げ、彼女は森の中に逃げこみ、その開けた場所で足を止め、息を整えていた。足を見れば、雑草や木の枝に裂かれ、血が流れている。体力はとうに限界だ、もうこれ以上は逃げることも抵抗することもできない。
――ならばいっそ。
 顔を上げた彼女の前に、濃紺のマントに身を包んだ男が立っていた。雪のように白い髪、月のように輝く瞳。その姿は正に魔女――魔法使いのそれであり、彼は彼女に手を伸ばしていた。そこに言葉はなかったが、彼が何を言いたいのか、彼女にはそれが自然と判った。それこそ、魔女のように。


 数分が経ち、村人たちが森の広場にやってきた。そこには最早、彼女の姿はない。
 村人たちはその広場を拠点に、森の中を探索したが、彼女の姿は見当たらなかった。
 それもそのはず。正真正銘の魔女は、けして人につかまらないのだから。


『本来の魔女』637文字