雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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KATANA

 カチリカチリカチリ、歯車が刻む、時を刻む。喰い違う切れ込みが螺旋を磨き、滲み寄せる空間に音が弾き、カチリと音を立てる。右回転と左回転、反時計回りの歯車が連動し、螺子を逸らし針を跳ね、カチリカチカチカチリカチと時を刻む。
 殺伐屋はしばらく懐中時計が奏でる妙音に聞き惚れていたが、前方の風が凪いだのを見て、重心を傾け単車を地面に近づけた。
 カチリカチリカチ、リカチリカ、チリカ、チリ、カ……チ、リ……。眼前に肉迫した地面が、駆け抜けてゆく。胸から下げている時計から聞こえる音が鈍くなり、目と鼻の先の大地はわずかな起伏さえ判別できるほどに、神経が研ぎ澄まされてゆく。カ、チ……リ。
 空間を抜けた。
 重心を立てなおし、バランスを取る。カ……チリ、カチリ、カチリカチリ。低速化していた時の流れが元通りになる。
 嘆息をもらし殺伐屋は笑う。
 のろのろと運行する四駆の間隙を縫いながら、殺伐屋は思う。自分以外のすべてが遅く感じる、この路上で、時の流れは可変、ときに逆行する時計を下げた自分を妨げるものはなにもない。彼方に沈む夕陽でさえ、失踪のさなかに目をやると昇る日とならん、と。


『クレイジーモーターサイクル』489文字