雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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BANKRUPT

 銀行に命を預くと、交通事故や地震などの突発的な事態に巻き込まれたとき、抵抗力が減じているため死にやすくなる。しかし、トラブルにさえ巻き込まれなければ利子の分だけ長生きすることができる。それに命を高額で買い取ってくれる好事家も、裏の世界には多い。
 その日、宮治は銀行に自分の寿命を十年ほど預けにきていた。不運が発生したのは、彼が預命を済ませ、銀行を出るときだった。
「お前ら全員、動くなっ!」
 鋭い声と共に現れた強盗は、受付に拳銃(その鈍い輝きは本物にしか見えない)を突きつけ、カウンタの上に黒革のバッグを置いた。
「この銀行にある命を全部貰おうか。おおっと、お前ら動くなよ。少しでも動いたら、これでバン! だ」
 まず宮治の命がバッグの中に放りこまれた。次いで見知らぬ人々の命も、バッグの中に詰め込まれてゆく。やがてパンパンになったバッグを持ち、強盗は銀行を出ていった。
 宮治は動けなかった。他の客も、銀行員たちも、警備員もまた動けなかった。
 銀行に命を預け、見た目の年齢の半分も抵抗力を有していない彼らは、強盗犯の障害になりえなかった。ましてその強盗は、既に何十件もの銀行強盗を成功させ、数百年分の命とそれに相応する抵抗力を身につけているのだから。


『第三種接近遭遇』530文字