雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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CAMOUFLAGE

 極薄のマイクロチップが埋め込まれた産業廃棄物の前に立った清掃員は、その規格を調べようと屈みこんで、手首に嵌めているリーダをマイクロチップに近づけた。瞬間的に読み込まれたデータが、清掃員の体内を走っている有線に乗り、その頭脳にあるデータを伝えた。
「書籍?」
 それはどう見ても彼がこれから処分するはずだった産業廃棄物だったが、マイクロチップを何度も読みこんでも、脳に送られる信号は、書籍のそれだった。
 清掃員はその場でしばらく考えたが、やがて知らないうちに新しいタイプの書籍が世に出たのだろうと自分を納得させた。しかし、それが産業廃棄物であれ書籍であれ、彼はそれを処分せねばならず――彼はそれを古本屋に持っていくことにした。
 古本屋の店員は持ちこまれたそれを思いっきり凝視した後、清掃員を睨んだ。
「これ、産業廃棄物じゃないですか?」
「いいえ。マイクロチップを読み込んでみてください。書籍ですよ」
「…………本当だ」
 店員から二千円札を受けとって、清掃員は古本屋を出た。


 少年が古本屋に入ると、どう見ても本には見えないものが入口の近くに置いてあった。それは今朝方、少年が悪戯でマイクロチップを書き換えた産業廃棄物であった。彼はマイクロチップのデータを元通りにすると、そしらぬ顔で店を出た。


『偽装』552文字