雲上四季〜謎ときどきボドゲ〜

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

THE STARRY EXPANSE OF THE SKY

 酔いを醒まそうと熱気に満ちたパーティ会場からテラスに出てみれば、先客がいた。頬を朱に染めて、星空を眺めているのはうら若い貴婦人だ。
「こんばんわ。失礼でなければ、ご一緒してもよろしいかな」
 私の気配に気づかなかったのは、貴婦人は驚いたように目を丸くし、後ずさった。
「驚かせてしまったようですね。私はアーノルド・バトラー、貿易商をやってます」
「……ああ、こちらこそ。失礼しました。ローズマリーと申します」
ローズマリー! かの薔薇姫と同じ名前ではないですか」
「ええ……世間ではそう呼ばれているようです」
 貴婦人は恥ずかしそうに火照った頬に手を当てながら言った。そのあまりの自然さに私は思わず、彼女の言葉を聞き逃すところだった。
「薔薇姫様……貴女が?」
「ええ、はじめまして。アーノルド様」
「これはこれは……思わぬ幸運」
 私は幸運の女神に感謝して、テラスの手すりに身を預け、星空を眺めている貴婦人――薔薇姫ローズマリーに近寄った。
「どうされました?」
「先ほど私は嘘を一つ申しました、薔薇姫様」
「嘘……?」
「ええ、本当の私は貿易商人ではなく、殺し屋……なのです」
「殺し屋?」
「はい。以後、お見知りおきください。そして、おやすみなさい。薔薇姫様」
 夜風が頬を撫で、私はパーティ会場に背を向けた。


『暗殺劇』560文字