刀を鞘から抜いたその瞬間から、躰を包む生温かい酩酊感。
視界の隅を緋い花が舞い散り、そこが戦場であると錯覚する臨場感。
この魔剣を使いこなせるのは、この世で自分しかいないのだという責任感。
失敗すれば、誰よりも先に己が血が吸われるという危機感。
しかし、他の誰でもなく自分にしか使えないのだという優越感。
目眩めく血潮の流れが、刀の中を通ってゆく親近感。
ゆらりゆらりと夢と現実とが、交錯してどちらも見えなくなってゆく幻惑感。
斬っ先を掲げてみた先に偶然にも敵がいたために感じる驚きと爽快感。
徐々に失われてゆく理性と常識、それに伴なう喪失感。
誰かに修羅と呼ばれ、誰かに鬼と呼ばれ、心の中に生まれる使命感。
またひとつ屍を越えて、新たな獲物を求めて暴れまわる飢餓感。
どうやら自分は既に自分ではないようだ、それを気づかせてしまう現実感。
果たして刀を揮っているのが、自分なのか、それが判らない違和感。
それすら飲みこまれ、何もかもが混濁の中に取り込まれてゆく高揚感。
虚空へと消えたそれらが見えぬ先、失われてしまった正義感。
その後は、
あらゆる感情――衝動に身を任せるだけ。