雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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BATTLE#4

「ようこそ。世界の屋上、忘却の彼方、仇討の戦場へ」
「時の君……」
 ふたりの人物が相対していた。しかし、そのふたりは、ふたり共、「人物」と形容するのが果たして正しいのかどうか、その判断に困るぐらいに「人物」らしくなかった。双方ともに一瞬ごとにその姿を変えているのだ。
 片方は黒いマントに身を包んだ痩せた男かと思えば、一瞬の後には和服を艶やかに着こなした女性に変じている。そしてもう片方も、生意気な少女の姿を取ったかと思えば、貫禄に溢れた壮年の男になっている。
 変化はまるで、流れる時の中、選択によって千変万化する可能性のように。刻一刻と変わる両者の姿は、そうなっていたかもしれない「人物」を象っているかのようだった。
「見よ、予の姿を。予の中にはこれほどにも多くの可能性が眠っているのだ。いずれ時が流れれば、可能性は削られ、現実となり、予の姿も固定されるだろう。……しかしッ!」
 突然、片方の威圧感が膨らみ、乳白色の霧となりもう片方を包んだ。
「貴様がッ! 貴様が生きている限り! 予には未来も過去もない。貴様が生きている限り、予という可能性は存在に到れないのだ。いずれの姿も取ることができず、生まれ出でていたかもしれないという可能性さえ生まれない! 貴様の……貴様のせいで!」
 霧が引いた。
 威圧感は消え失せ、霧の中にいたもう片方は、白銀の甲冑に身を包んでいた。
「だから。始祖である我を殺すと」
「その通りだ。これは言わば、予による予のための仇討。貴様にはここで死んでもらう」
「我も幾つか言いたいことがあったが、ここに来てはもはや不要。すべて忘れ却ったわ」
「それは好都合。ならば、存分にお互いの可能性を賭そうではないか!」
「我に、惑いも容赦もない。時の君――その可能性、喰らい尽くさせてもらおう」


『最終決戦』759文字