雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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WALK ALONE

 一郎は次郎の頭に灰皿を振り落とした。その光景を、メアリは見ていた。


「メアリは勘違いをしない」館の主は、厳かに言った。「メアリは人間にしか見えないが、人間ではない。機械だ。先だって私がメアリに居間に残っている人数を訊ねたときのことを覚えているだろうか。メアリは自身を数に含めることなく、七人と私に答えた」
「ちょ、ちょっと! ちょっと、待ってください」一郎氏が声を張り上げた。
「なんだね」館の主は躰の向きを変え、一郎氏に向きなおった。
「彼女が人間でないなんて信じられません。証拠を見せてください」
「彼女……」館の主は、口の隅を歪めて笑った。「脈を取るなり、何なりしたまえ。メアリは機械であり、それは疑いようのない真実だ」
 一郎氏は居間の隅に立つメアリの元に歩みより、「失礼」と声を掛けてから、その冷たい手を握り締めた。「……本当だ、信じられない」
「君に信じてもらう必要はない。問題は。問題は、――そう、一郎氏、君の弟である次郎氏が死んだときのことだ。犯行を目撃したメアリは、その場に二人の人間がいたと証言している。先ほど言ったとおり、メアリは自身を数に入れない、また次郎氏が死んだ時点で彼もやはり数に入れられることはない。ならば、メアリが目撃した二人の人間とは一体誰なのだ。事件前後、関係者のほぼ全員にアリバイはなかったが、それらは絶妙に入り交じり、二人同時にアリバイがないなんて時間は一瞬たりとも存在しなかった」
「簡単だ」そう言ったのは、今まで口を噤んでいた白衣の探偵――夕賀恋史であった。「冒頭に目を向けろ。次郎氏が殺されたとき、その場には犯人の他に、もうひとりの人間がいた。その人物に訊ねてみようではないかね」
「そ、その人物とは?」一郎氏が慌てたように叫んだ。
夕賀恋史は華麗に言い放った。「読者氏。君に訊ねよう。犯人は、誰だね?」


『構築知性』780文字