雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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ANY WHERE

 かつて、何処でもない何処かへと旅した旅人がいた。旅人は誰も知らない何処かを求め旅を続けていたが、旅人が訪れる何処かは、どれも誰かが知っている何処かであった。
 ある時、旅人は誰もが知る何処かへと漂着した。旅人はそこで今まで誰も知らなかった音色を奏でる吟遊詩人と出会った。旅人は吟遊詩人に「君は何処でその誰も知らない音色を知ったのか?」と訊ねた。吟遊詩人は「この音色は僕しか知らない何処かで見つけたものです」と答えた。旅人は続けて訊ねた「その君しか知らない何処かとは、何処にあるのか?」と。吟遊詩人は少し迷った素振りを見せてから自分の頭を指差した。偶然、隣でふたりの会話を聞いていた踊り子は、すぐに吟遊詩人の言わんとしていることを理解したようだったが、旅人はまるで判らず、逆に自分がからかわれたのだと思い、憤慨した。
 それからも旅人は長いこと旅を続けていたが、やがて旅は終わりを告げた。旅人の寿命が尽きたのだ。行き倒れた旅人を発見した村人は、優しい心の持ち主で、旅人を弔ってやった。
 果たして旅人は辿りついたのだろうか。


『何処へ』462文字