雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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NEW YORK

 未完成の都市。
 その都市にある建築は、日夜、成長を続けている。仮にホテルの最上階に部屋を取ったとしても、朝を迎えたときにその部屋が最上階のままであるとは限らない。誰が工事をしているという訳でもないのに、その都市の建築物は、いつの間にか増築されてしまっているのだ。それは言わば、どんなに完全に漸近しようとも、永遠に未完成でありつづけることを宿命とされた呪いとも言える。
 ここにひとりの男がいる。病める都市に没頭し、その進化の果てを見定めようとした男が。彼は、自ら地下へと成長する塔を建築し、その塔の最下層に己の寝室を構えた。日が沈むごとに、外観はまったく変化のない塔だが、地下へ向けては確実に成長を続けていた。そして男もまた、己の寝室を何度も構えなおした。
 あるとき、この都市を地震が襲った。地下への防災は完璧だったこの塔は、地上に見えている部分は老朽化が進んでおり、簡単に崩れ落ちてしまった。地下への入口は、崩れ落ちた塔によって、見ることさえできなくなった。果たして、男は自分が地下に閉じ込められたことに気づいているのだろうか。もっとも変わり者の彼のことだ、そのうち地球の反対側から地上に出れると思っているかもしれない。
 男はまだ地面の下。


『未完都市』525文字