雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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PEACE MAKER

 海上移動図書館《ピースメーカ》は凪いだ海上を漂っていた。潮風は微塵も吹いておらず、さざ波ひとつない海面は限界まで研磨された鏡のように、静謐を保っていた。
《ピースメーカ》には書物と、それを快適な状態に保存するための設備しか積まれていないので、風が吹かなければ、移動することができない。この海域が完全な凪いだままになるのは、一日から五日まで、平均して三日間と言われている。《ピースメーカ》の動きが止まったのは一昨日のことなので、今日にでも風が吹いてもおかしくない。
 愛読書を片手に甲板に出た《ピースメーカ》の館長は、頭上を旋回する海猫の啼き声を聞きながら、本のページを繰りだした。その本は《ピースメーカ》に登録された最初の一冊であると同時に、館長の私物であり、今は亡き館長の祖母の著書でもあった。
 その本には、世界中の書籍を蔵し、誰にでも好きに閲覧することのできる、海上を移動する船の図書館が登場する。館長は祖母の描いた夢物語を受け継ぎ、それを現実のものとしたのだ。もっとも、今はまだ《ピースメーカ》に蔵されている書籍の点数は少ない。世界中の書籍を蔵し、図書館が名実ともにピースメーカとなるのは、まだ先のことである。


『夢物語』510文字