雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

オススメの謎解き&ボードゲーム&マーダーミステリーを紹介しています

DA CAPO

 夕賀恋史は顔を上げて壁に掛かっている時計を見た。針が指し示していた時刻は、彼が頭に思い描いていたものと全く同じだった。握りしめていた拳を解きはなち、彼は部屋を出た。
 屋敷の間取り図は既に頭に入っていた。夕賀恋史は一片の迷いすら見せず、最短距離を疾走して目当ての部屋に飛び込んだ。
「お待たせ――しました」
 屋敷の主人――の娘、令嬢が暖炉の前に立っていた。彼女は急な来客に驚いたように目を見開き、次の瞬間には怒ったように頬を紅潮させた。
 夕賀恋史はダンダンと床を踏み鳴らすして令嬢に近寄り、彼女を押し倒した。令嬢が息を飲み、夕賀恋史を突き飛ばそうとしたまさにその瞬間。一発の銃声が屋敷に響き渡った。
 夕賀恋史の下で、令嬢は苦しそうにもがいているものの、まったくの無傷だ。凶弾は彼女を傷つけはしなかった。夕賀恋史は微笑み、顔を上げ、愕然とした。ちょうど部屋に入ってきたのだろうか、屋敷の主人が胸を打たれ、壁に寄りかかるようにして死んでいた。
「なんてことだ」いつもの俊敏な動作ではない、ノロノロとした仕草で立ち上がった夕賀恋史は、暖炉の上のバスケットに手を伸ばした。バスケットの中にはパイナップルやオレンジといった果物の中に、卵がひとつ交じっていた。
 夕賀恋史は時の卵を掴むと、一息に握りつぶし――、顔を上げて壁に掛かっている時計を見た。


ダ・カーポ573文字