雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

オススメの謎解き&ボードゲーム&マーダーミステリーを紹介しています

ENGINE AND RYDEEN

 炎神はブルルと身体を震わせると、カッと目を開き、その身を打ち付けていた雨粒を蒸発させ、毛の先に至るまでを瞬間的に乾かせた。
 炎神は風雨の吹き荒れる海岸に立っていた。騒めく海上には、雷神が牙を剥いて威嚇していた。その青白いたてがみは、ときおり発雷し、波間に雷を落としていた。
「言わねば判らぬか」雷神の口がくぐもった声が漏れた「跪くがいい、話はそれからだ」
 雷神の背後には、難破しかかっている大船の姿があった。あの船の守護獣が、今、目の前に浮いている雷神だと言うことは容易に判った。判った上で、炎神は嗤ってみせた。
「それはこちらの科白だ、異邦の獣よ。いつまでも我が忍耐が続くと、思ってくれるなよ」
 そう言うと、炎神は身体の内側で熱された空気を、排気管から吐き出した。白い煙が、その身体を包んだ。二匹の獣の相対を見守っていた、島人はそれを見て大砲の準備を進めた。目標は海上のさなかにある、一艘の船。炎神を信奉する人々にとって、雷神を信奉する人々は敵であった。
 人々の動きを見て、雷神は口惜しそうにひげを震わせた。ようやく荒波を越えて新天地へと辿りつこうとしているのだ、手段は選んでいられない。雷神は誇りを捨てた。ゆっくりと足を海面につけた。途端、身体に満たされていた電流が凄まじい勢いで、海中に飲み込まれた。脱力した雷神の身が傾ぐ。
 嘲笑う炎神の前、雷神は飛沫をあげて水中に没した。


『獣の魂』596文字