「時よ止まれ、時よ止まれ。今この瞬間よ、永遠となれ!」
高らかに、朗らかに。声を張り上げて、歌いながら、しなやかな指を鍵盤に叩きつける。
打鍵、打鍵、また打鍵。
どう見てもデタラメにしか打っていないのに、旋律は次から次へと繋がり。さながらエネルギー保存の法則を無視したボールが、たった一撞きで一番ボールから九番ボールまで落としきってしまうように。理論を無視し、彼女は音を楽しみ楽しませた。
「苦しいときも悲しいときも辛いときも泣きたいときも、星は輝いているから。見上げれば、気がつくから。見守ってくれている星に、気がつくから」
天を仰ぐように大きく腕を広げ、肩から先を鞭のようにしならせて打鍵する。
驚いたことに、彼女の演奏は三日三晩、続いた。
最後の夜明け、最後の瞬間。彼女は打鍵と同時に、鍵盤の上に倒れふし、ぐうぐうといびきをかきはじめた。
ぱちぱちぱち……。
「ぶらぼー、ぶらぼー」
三日三晩、一睡もせずに彼女の演奏を清聴していた彼氏は、両手を高くあげて拍手した。そして、そのままの姿勢で彼もグッタリと倒れ、寝息を立てはじめた。
数分後、ふたりの共通の友人が、部屋を訪れた。友人は寝ているふたりを見て呟く。
「なんなんだこいつらは」