雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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GUARDIAN_01

 褐色の雑草が敷きつめられた煉瓦の隙間から顔をのぞかせている。
 背の高い雑草の幾つかは、煉瓦を割って生えているようにも見えるが、実際は雑草にそこまで力はなく、煉瓦は風化して割れたのだ。
 一匹の猫が歩いていた。
 闇の雫で染めたような黒い毛並みに、琥珀色の瞳が見開かれていた。
 猫の後を追うように、深紅のビジネススーツを着た女性もいる。
 両脇に繁る大木の落とす影に、彼女の黒髪と黒目が溶け込んでいた。
 先行する黒猫の前に石像が立ち塞がった。
 下半身を石塊の中にうずめ、両腕を組んでいる森の番人だ。その半眼になった眼窩からは、翡翠色の輝きが漏れていて、それを覗きこんだ猫は身を震わせた。
「石の番人か」
 猫に遅れること数秒、やってきた女性は今にも石の中から一歩前へと踏み出そうとしている番人の前に立った。彼女は番人の腕に抱かれた三本の石矢を撫でてからしゃがみこんだ。そして、番人の座している石塊を地につなぎとめる蔓草を抜き始めた。
 そんなことをしても、番人が動き出すわけでもないのに……と、黒猫は不思議そうに女性を見上げた。
「環も手伝いな」
 マニキュアの差された爪で、蔓を引っかきながら女性は猫に命じた。
 しかし環と呼ばれた黒猫はつまならそうに寝そべった。
 それを視界の隅で見つつ、女性は嘆息。そのまま蔓を取りつづける。


『森の番人(前編)』570文字