涙の落ちる音が聞こえた気がして、死神は振りかえった。鎌は目を赤くしていた。
「どうしたの?」
満点の星空を望みながら、ひげ面の男は顎を掻いた。
「なあ、息子よ。私たち親子がこの無人島に漂泊してから、もう幾つの夜が過ぎただろうか」「判らないよ父さん。夜が明けるたびにマークをつけていた聖書も、いつかの嵐でどこかに飛んでいってしまった」「そうか。そう言えば、嵐が来た夜もあったな。あれはもうどれぐらい昔のことだったかな」「覚えてないよ父さん。少なくとも一週間は昔だろうけど、ひょっとしたら一ヶ月ぐらいかもしれない」「ああ。それぐらいだとしても、不思議ではないな」
再び顎をポリポリと掻いてから、男は目蓋を降ろした。
やがて夜の帳が引かれ、朝陽が顔を覗かせた。
男は少し早いが朝食を食べようと思い、自分の背中にしなだれかかっている息子の様子を窺った。
朝陽に照らされたそれは黄色く変色した骨でしかなかった。