秋山の書いた小説を、一篇でも読んだことのある方は「わからない」と感じたことだろうと推測する。そう、作者本人が言うのもなんだが、秋山の書いた小説は「わからない」。
何が「わからない」って、そう、作者の言いたいことがわからないのだ。自分で言うのも何だが、秋山の書いた小説は、けして下手ではない。所々に光るシーンはあるし、冴える描写もある。けれど大局的な視点に立って見たとき、まるでわからないのだ。ストーリィもわからなければ、キャラクタもわからない。ただ、作者がわりと頑張っていることは見てとれるし、なんとなく面白く読めるところもあることにはあるから、まあ、そこそこ楽しい……でも、わからない。
読者が「わからない」と感じるのは当然だ。
“読者不在の小説”――という言葉が当てはまるかどうかは不明だが、つまり秋山が書いた小説には、一篇たりとも読者に向けて書かれたものがない。すべては秋山が日々をのほほんと過ごしていて、なんとなく思いついた、なんとなく面白そうなアイデアを、なんとなく楽しそうに書き綴っているだけで。言わば、“秋山による秋山のための小説”である。なにしろ自身のために書かれているのだから、秋山が読んだときに限り、その小説は傑作になる。そんな小説を読まされる読者としては、えらく迷惑だろうが、秋山はここ数年ほど誰かに読んでくれと頼んでないし、感想も特に不要と言っている。気分としては「折角書いたのだから、読ませてあげるよ」的なものに近い*1。
今のところ、このスタンスを変えるつもりはない。とにかく、誰かと誰かがわかりあうことなど不可能と考えているから、誰かに理解を求めるつもりはない。しかし、この自身にとっての傑作が、もう少し共有できれば。もう少し作品に普遍性を与えて、とりあえず自分の身近にいる人間が楽しめれば。ひょっとしたら、ひょっとするかもしれない*2。
そこで一つのアイデアが浮かんだ。や、浮かんだと言うか、リッパーさんの『きみとぼくの壊れた世界』レビューを読んでいて思い至ったのだが、なにも最初から最後まで徹頭徹尾、自身のために書く必要はなく、すべてをわかってもらわない必要はないのだと。
たとえば秋山は西尾維新をキャラ萌え小説として読んでいる。「病院坂黒猫可愛いなあ、売春してるってところがポイント高いよなあ。グッと来るぜ」なんて倒錯した思考を抱きつつ読んだ*3。しかし『きみとぼくの壊れた世界』は、そういうキャラ萌え的なパートの他に、本格ミステリ的なパートも含まれている。よってキャラ萌えで楽しめる人はキャラ萌えで楽しめばいいし、ミステリで楽しめる人はミステリで楽しめばいいわけだ。
これを秋山に当てはめたとき、例の如く「わからない」パートは秋山しか楽しめないが、その「わからない」パート以外に萌えかミステリがあれば、萌えが楽しめる人やミステリが楽しめる人は、楽しめるだろう。
この挑戦には、ジレンマが内包されている。
原因は不明だが、秋山は理解したりされたりするのが嫌いだ。手に取るように理解できるものは、往々にして面白くない。なんとなく理解できる、理解できなくもない、それぐらいの――言わばギリギリさが好き。だから、多くを語って理解されることを、忌避する節がある。
ミステリ作家も同じような不安を抱えているのではないだろうか。あまりヒントを与えすぎてしまうと、解決編の前にバレてしまうし、逆に言葉を少なくしすぎてしまうと、アンフェアだと言われる。ジレンマだ。
まあ、ジレンマとは言え、んなもんはぶちこわせばいいわけで、喧嘩上等だ。はなから逃げ腰というのは、理解云々以上に嫌いだ。まず、やればできることを証明した上で、しかるのちに正々堂々と引き篭もってやるこのやろう暇人舐めてんじゃねえぞ、おら。文句ある奴は前に出ろ、鉄拳制裁だ。
以下、蛇足。
とは言え、わかるように小説を書くことは、好きになれないし、時間が掛かるわりに見込みが少なそうなのでゲームを作ろうかと思っている。具体的にはRPGと育成物を掛け合わせたような。これならストーリィがまるで意味不明でも、ゲーム的な部分だけで楽しめるしね。
作るのは受験が終わってからになるだろうけれど、今ある構想としては、こんな感じ。
――第七世代前期。
感知観測できるリアルのすべてを消却し、上から塗りつぶしてしまうアストラル・ターム。物理的なものにその境を越えることはできず、それまでに脈々と受け継がれてきた人類の歴史は、そこで途切れざるをえないかと思われた。絶望的な未来を、どうにかするために、科学者たちは精神的に堕落しきった世において、異常なまでに生に執着したひとりの殺人鬼を、電子に分解し、アストラル・ターム後に再結成させるプログラムを組んだ。
電子に分解された殺人鬼は、一切の記憶を失い、目覚めたとき、彼はある建物の中に倒れていた。起き上がった彼は本能のままにさまよい歩き、やがてδ棟と名付けられた三角形の建物に到った。その建物には病室がひとつ、X・Y・Zのすべての値が1のその病室には、フィーという名の少女が眠っていた。
ゲームの目的は、全24個のダンジョンを制覇し、殺人鬼として自分が今までに殺めてきた24人の被害者たちの記憶を取り戻すこと。そしてその過程で得た“智慧のカケラ”を使い、正六面体の海から歴史を発掘することと、フィーを目覚めさせ電子的にシュレッディングされた躰を再結成させること。
わかりにくさのレベルは下げているつもりだから、3人にひとりぐらい、「ああ、面白そうかも」と感じると計算。
ゲームを作るか否かは、まだ決定していない。もう少し形ができたら、ゲーム制作日記、なんてのを開始するかもしれない……し、しないかもしれない。