雲上四季〜謎ときどきボドゲ〜

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

有川浩『塩の街 wish on my precious』

 第10回電撃ゲーム小説大賞、大賞受賞作。

 塩害に遭った人間なんてもう珍しくもない。街中に立ち並び風化していく塩の柱は、もはや何の変哲もないただの景色だ。
 生きていた頃の姿をきれいに残した精緻な塩の彫像、雨風がそのかつて生きていた人々の姿を削り取って撒き散らす。元の姿などとうの昔に失われ、オブジェと化して林立する白い柱。溶け流れ、削り取られて街路に散った死体のかけらの塩粒を、もはや誰も気にせず踏んで歩く。元は誰だったのかいちいち気にしていた気が狂う。
(45ページより)

 物語の舞台は崩壊した東京。人間が塩と化す正体不明の塩害は、東京だけでなく世界中を吹き荒していた。終わりの近い世界で、秋葉と真奈のふたりは寄り添うように暮らしている。そんな彼らの平穏な生活にノックする、来訪者が現れたとき、ふたりと世界の運命は変わる――。
 本書は全七章からなっており、最初の三章は主人公たちや塩害を描くために用意されたもののようで、連作短編の様相を呈している。逆に後半の四章は、世界を変えるために動き始めたふたりがメイン。電撃作品で例えれば、前半が『しにがみのバラッド。』で後半が『アンダー・ラグ・ロッキング』『リバーズエンド』『ウィザーズ・ブレイン』などを連想。
 ライトノベルの定番を行くかのように、恋愛をメインテーマとして取り扱っているが、萌えや記号化を重視するライトノベルに反して、わりと硬派で堅実な描写を行っている。したがって、判りやすくはない。塩害で荒れ狂った都市と、そこに住まう孤独な彼らを想像して、はじめて楽しめるかといった具合。どちからと言えば『キーリ』に続き、男性読者よりも女性読者が楽しめるだろうと推定される。
 上記の基準を踏まえた上で言えば、今作は不完全だと思った。前半は間違いなく、大賞の風格を備えたもの。『キノの旅』ほど気取っていないし、『しにがみのバラッド。』ほど稚拙でないし、色々なことを知り、それらを書く技力を有しながらも、選別して、その終点としてこの一篇があるのだと思わせるような、広がりのある文章だ。しかし後半で一転して、ただのアクション、ただの恋愛、そういったものになりさがっている。しかも、前半では緻密に描かれていた主人公たちの人間性が、後半では失われているのだ。その判断にも決意にも覚悟にも、前半において見受けられたような重々しくも鋭く人間味溢れるものはなかった。しかも、この話は続く。確かに一旦の決着はつけられてはいるものの、それは「長いシリーズの幕開け」的なもので、読みはじめに「これはいい短編連作だ」と思っていた自分としては、えらく裏切られた気分だ。
 最後に、二月刊行の第10回電撃ゲーム小説大賞、大賞・金賞・銀賞と、四月の新人フェアを一覧化しておこう。

塩の街 wish on my precious
著/有川 浩 イラスト/昭次
塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。崩壊寸前の東京で暮らす男と少女に、運命が刻一刻と迫りくる。圧倒的な筆力で贈る第10回電撃ゲーム小説大賞<大賞>受賞作。
我が家のお稲荷さま。
著/柴村 仁 イラスト/放電映像
三槌家の祠に封じられていた一匹の古狐が少年を護るため現世に舞い戻った。世にも美しい白面の妖怪・天狐空幻(てんこくうげん)である。しかし、その物腰はやけに軽薄で……
●先輩とぼく
著/沖田 雅 イラスト/日柳こより
変人美少女の先輩とぼくの中身が入れ替わった!? ヘンテコな二人が繰り広げるハイテンション脱力ラブコメディ。第10回電撃ゲーム小説大賞<銀賞>受賞作。

結界師のフーガ
著/水瀬葉月 イラスト/鳴瀬ひろふみ
異界の者達に名を轟かす結界師にして逃がし屋・逆貫絵馬。ちょっと荒っぽいけど腕は確かですっ! 第10回電撃ゲーム小説大賞<選考委員奨励賞>受賞作、登場!
シュプルのおはなし Grandpa's treasures
著/雨宮 諒 イラスト/丸山 薫
本を読む事が大好きなシュプルは、おじいちゃんの宝箱を見つける。そして、その中の宝物に纏わる話を紡ぎだす。第10回電撃ゲーム小説大賞<選考委員奨励賞>受賞作。
●埋葬惑星 The Funeral Planet
著/山科千晶 イラスト/昭次
埋葬惑星ドールランド。猫型アンドロイドのジョーイは主人の亡骸を宇宙に放つべく、星に不法侵入した青年の協力を得ることにしたが……。期待の新人登場!
とある魔術の禁書目録(インデックス)
著/鎌池和馬 イラスト/灰村キヨタカ
“超能力”をカリキュラムとする学園都市に“魔術”を司る一人の少女が空から降ってきた。『インデックス(禁書目録)』と名乗る彼女の正体とは……!? 期待の新人デビュー!

……多いなあ。