- 作者: 霧舎巧
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/04/06
- メディア: 新書
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「手首を持ち歩く男」これは構成が面白い。犯行状況を描いたものをプロローグに配しており、それと全く同じ内容をエピローグにまた書いているのだけれど、本編を読む前と読んだ後とで、同じはずの描写がまるで違って見える。
「紫陽花物語」これは今ひとつ。
「動物園の密室」これも今ひとつ……だと思っていたら最後のページで全ての評価が逆転。あとがきに、この作品は《意外な凶器》が隠しテーマですと書いてあったが、確かにこの凶器は凄まじい。ミステリの危険な魅力が最大限に発揮されていると思う。
「まだらの紐、再び」これは面白いと思った。『まだらの紐』を未読なので完全に楽しめているとは言いがたいが、ミステリとして謎も魅力的だし……と言うか密室大好き人間として、幾つかある脱出経路がひとつずつ潰されていく場面は、非常に楽しく読める。落ちも素晴らしかった。
「月の光の輝く夜に」これは異色。霧舎とは思えないほど幻想的で少女小説風味。途中まで面白かったので、最後の最後までこれを保ってほしいと思っていたら、ばっちり保ってくれたのが良かった。月を題材に挙げており、本当に美しく、本人の許可が得られれば、この一編を抜きだして完璧にデザインを仕上げて一冊、本を作ってしまいたい。
「クリスマスの約束」創元推理的とでも言うか、これまでの短編は実は伏線に過ぎなかったというような作品。「月の光の輝く夜に」にも言及しているのだけれど、これは蛇足。とは言え、この謎解きが「月の光の輝く夜に」とは別に書かれている点はいいと思う。最後の落ちも悪くなく、もう《あかずの扉》シリーズの続きが出ることはないのかもしれないなと思った。