
- 作者: 麻耶雄嵩
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2004/08
- メディア: 単行本
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――さて。面白かった。先に読んだ『夏と冬の奏鳴曲』が瑕疵の多い作品で、これも多かったのだけれど、冗長な地の文が圧倒的に少なく、とても面白く読めた。秋山は事前にこの作品をして「わりと序盤でトリックに気づいてしまい、それを確認するかのように読み進めるのだけれど、終盤でトリックが二重に仕掛けられていることに気づいた。分かりやすいトリックで読者を油断させておいて、隠されていたトリックで驚かす、この技術が凄い」というような評を読んでいたので、警戒に警戒し読み進めた。確かに、前面に押し出されているトリックには簡単に気づいた。ミステリを読み慣れている人間であれば、簡単に分かるだろう。そして、そこで立ち止まって考えるべきなのだ。大抵のトリックは読者を驚かすために存在するが、この作品における前面のトリックは後背のトリックを隠すために存在する。つまり、どうして麻耶はこんな分かりやすいトリックを設けたのかを考えなければならない。そしてこの思考が素晴らしい。まさしくミステリ読者のためのミステリだろう。さらに大きなトリックの背後に隠されているトリックも二重三重に張り巡らされているし、最後の一ページがもたらす本当の戦慄は、それまでに作品内世界で培われたあらゆる常識を否定し、世界を覆す。
思えば『夏と冬の奏鳴曲』もそうだった。彼女は存在しないという題を掲げたのは浦賀和宏だが、最後の一ページで明かされる真相から、真逆の方向へと物語がずっと続くのだ。それ故に最後に明かされる真相が、ちょっとした驚きではなく、世界が覆されるほどのカタルシスに感じるのだ。素晴らしい。
少し前に秋山の作品をして「麻耶雄嵩と佐藤友哉を足して二で割ったような感じだ」と言われたが、確かにその通りな感じがしなくもない。もし秋山が数年前の時点で麻耶を読み崩していたら、もっと麻耶に傾倒していたかもしれない。