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水の迷宮 (カッパノベルス)

水の迷宮 (カッパノベルス)

 序章の僅か五ページで完全に心を掴まれた。ひとりの男の凄惨さを感じさせるほどに強烈な、夢を実現に導こうとする情熱。本書は大傑作なのではないだろうか。もう熱い、熱すぎる。それはもう人も殺してしまうだろう。この夢は、その壮大さは幾つもの人間の生命を容易く喰らってしまうだろう。――かつてここまでに非現実的だがしかし、情熱的な動機があっただろうか。大傑作だよ、これは。
 この事件は概要もまた魅力的。「東京湾の汚染はひどいですね」と水族館宛てにメールが届き、東京湾を模した展示水槽を確認してみたところ、水槽には意図的に配置されたゴミに混ざって不審な瓶が転がっていて……と、衝撃的な事件から幕が上がるのだ。姿の見えない犯人の放つ攻撃に、職員は後手に回るしかなく、水族館という守るべき空間を持つ者たちが、その立場ゆえに守ることしかできないという状況も焦燥感を煽る。解決編に前後して、『月の扉』と同じく多少、中弛みすることはあるが、最終的に明かされる怒涛の真相という嵐の前の静けさのようなもの。大傑作。